第5話 やってきた彼氏は、俺に「ご挨拶」しに来たみたいです!

「は?」




 俺は、衝撃でその場に倒れそうになった。


 リビングにいたのは全く面識のない、男子高校生。制服からして、凜と同じ高校だろう。


 


 それにしても、かっこいい。


 こんなにイケメンなら、学校中の女子からモテモテだろうな。


 彼の容姿は、まるでアニメに出てくる王子様のようだった。




「っはじめまして! お義父さん」


 お義父さん!?




「……えー、と」


 誰だ。そして、こんな時間まで何故、我が家に? 




「親御さんには、説明してきてる?」


 もう午前二時だけど……。




「大丈夫です! 親には、すべて言って来たので!」




「は、はあ」


 それはそれで、心配なんだけど。




「それで、家に何の用かな。お友達として、遊びに来てくれたのは嬉しいんだけど……やっぱりこの時間は」という俺の言葉を、引き裂いて、男子高校生は口を開く。




「僕、山崎優斗は! 正式に凜さんとお付き合いすることになりました!」


 そう言って、彼は凜と手を繋いでお辞儀した。俺に向かって。




 その瞬間、俺の中での何かが破裂した。




 一分間の、沈黙。




「―――なりました?」


 なりますとかじゃなく。なりました。




 頭がついていけず、とりあえず凜の方を見た。凜は無表情で、特に何も思っていないようだった。手もつないだままみたいだし……え、ほんとに?


 


 え?




「り、ちょ、あぁぁぁあああああああああっと、ちょっと凜と二人で話がしたい! いいかな!?」


「え? あ、はい」




 凛と彼との恋人つなぎを一刀両断し、凜を連れ出した。


 廊下では聞かれていないか心配だったため、とりあえず凜の部屋へ。




 ピンクと兎を基調とした、凜の部屋。いつもは可愛らしすぎて、足を踏み入れたいとは思わないが、今は何となく体に馴染む。なお、ベッドは二人で寝ているため、ここで二人で座れるものはソファぐらいだ。




 よって、俺と凜はソファに腰かけた。




「ええっと……」




 何から話し始めればいい? おめでとう?


 いいやそんなことは絶対に言えない。娘が……うちの娘がこんな時間に彼氏を連れてくるなんて! 信じられない! 信じるものか!




「凜! 付き合うなんて、嘘だよな? 年頃の男の子をからかうなんて、ダメだぞ?」


 そうだ、そうだ! あんなの、もう完全にメロメロじゃないか! 何かあってからじゃダメなんだ! ここはきっちり!




「本気で付き合ってる」


 凜は、真面目な顔でそう言った。




「ええ!?」


 凜の両肩を掴んでいた手に、力がかかる。


 本気、だなんて……いやだな。




「凜は、付き合うとか、彼氏とか、理解しているのか? 小学生のお付き合いとは、別物なんだぞ?」


「?」




 俺の言っていることは、あんまり理解されていないらしい。ほら! やっぱり!


 あの山崎なんたらとかいう男子高校生が、凜を適当に言いくるめたんだろ!




「凜!  あのな、高校生のお付き合いって言うのは――――――」


 そこで言葉が止まった。




 こういうのって……俺の口から言っていいものなのか。




 俺は今まで、凜に性教育なるものを教えてこなかった。そりゃ、中学生の時は色々あったが、とはいえそんなこと、訳もわからず怖くて逃げ惑っていただけだ!




「りゅう?」


「……っぐ」


 


 良心がえぐられる。こんな……こんなに近づかれて、体もみっちりくっついている状態で、「あのな、高校生のお付き合いってのは、ピ―――したり、ピ――したりするんだ。俺も若いころは、活発でいっぱいピ――――して」




 冗談だ。最後の方は特に、冗談だ。


 そんなこと言えば、「え、りゅう……キモ」で、一発アウトだ。






 と、その時。




「あーえっと……り、ん!?」


 抱きしめられる。超絶なまでに密着する。




 後ろに手を回され、体重を乗せられ、二つの何かが……柔らかさのあまり少し潰れ平らになっているのを感じる。




 いやいやいや、そういう問題じゃない!




 これは! 家族とかそういうの以前に、男女関係における―――――――――、駄目だ、駄目だ、駄目だ!




 俺のッ、ムスコがぁぁぁぁぁああああああああ!


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