第4話 メロメロな娘は、彼氏を連れてきました!
オフィスにて。
「お、凜だな」
スマホから通知音がして、取り出した。
メッセージを読んでいると、すぽんっと新しい何かが更新された。凜のお気に入りのスタンプ。白い兎のスタンプだ。
手を振って、ありがとうと。
「あは~」
俺の気持ちが一気にあがる。
『今日は多分早く帰れるから、一緒にご飯食べれるよ』
すると、わくわくした兎のスタンプが返ってくる。
「あはははは~」
こういう瞬間が、一番仕事しててよかったって思える瞬間かもしれない。いや、帰ってきてから凛と食べる夕飯か?
そんなことを呑気に考える。
今日はなんとか間に合いそうだな。これなら、チョコだけじゃなくて駅前のシュークリームも買って帰れそうだ。
などと考えていると、誰かがドアを開ける音がした。
バンッ! と、とてつもない勢いで。
「誰だ! 発注ミスって10倍の個数の米を注文した奴は!」
太った、いかにも偉そうな男が、怒鳴っている。うわ、誰がやらかしたんだ。
「若林! 若林はどこだ!」
と、言っているが、当の本人は現在不在。そして俺は、上司である。
男の下へ走っていき、俺は謝罪した。
「す、すみません。若林は現在不在でして、私が全面的に……」
「八雲さん!」
後ろから呼ばれて振りえれば、同僚の三つ葉さん。
「スケジュール、これ絶対間に合わなくて……多分、若林さんが……どうすれば……」
「八雲さん! こっちも!」
「八雲さん! ごめんなさい……「八雲さん!「八雲さん!「八雲――――」
「――――順番ずつ行くから、ちょっと待っててね……」
今日も、帰りは遅くなりそうだった。
「はあ……くそ」
うちの部署は、俺が言うのもなんだが、俺がいないと回らない。
会社自体がブラックで、うちの部署にあまり経験の多い子ばかりではないということは確かだが。
とにかくみんな、困ると俺のところに来る。
それか、無かったことにして見過ごして後あと大変なことになるパターン。
ちひろちゃんは――あれは完全に逃げたな。それとも、何かの腹いせか?
ちひろちゃんはこういっちゃなんだが、仕事ができない。彼女とは長いことやってきたが、何度同じことを注意してずっと同じミスを繰り返している。
「……それにしたって、こんな時間まで」
時刻は午前二時。
マンションのエレベーターから出て、304号室に向かう。
「せっかく今日は、凜と一緒にご飯が食べられると思っていたのに……」
今年に入ってから、なぜかとても忙しくなった。深夜に変えることが多くなり、凜と共に夕食を食べることが減り―――一緒にいられるのはあの、短い朝の時間だけ。
凜が遅くまで起きていることはない。だからきっと、もう寝いているだろう。
鍵を開け、部屋に入る。
小さな声で。
「……ただいま~」
当り前に、帰ってくるはずもなく。
「おかえり」
「え」
玄関の電気がついて、出迎えたのは凜だった。ふわふわのジェ○ピケなパジャマ姿。脇に、兎の抱き枕を抱えて。
「凜、こんな時間まで起きてたのか」
眠い目をこすりながら立っている、凜。
「出迎えありがとう。でも、もうこんな時間だし、早く寝なさい」
私は凜の頭を撫でた。それだけでも、もう寝落ちてしまいそうな凜。その姿も、めっぽう可愛い。
「だめ……今日は、りゅうに大事なお話があって……だから……」
「お話?」
大事なお話? なんだろう? 互いの誕生日も近くないし、季節のイベント事も特にないはず。
「うん、リビング……きて」
ふらふらしながら凜は俺を引っ張った。俺と腕を組みながら。
―――これは、決して俺が、胸に腕を当てているわけではない。凜が、腕を胸にあてているのだ。俺が触っているのではない、俺じゃない。
そう思いながら、廊下からリビングに出た。
「は?」
俺は、衝撃でその場に倒れそうになった。
リビングにいたのは全く面識のない、イケメンな男子高校生。
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