第3話 学校一のイケメンは、娘にメロメロです!

「―――気色悪い。いい加減、やめて」






「ほとんど話したこともないし、先輩のくせに。もっとやり方あるでしょう」




「っぐ……」




「それとも今までの雌は、そう言えば簡単に受け入れてくれたんですか?」




「っぐへ……」




「ふはっ、だとしたら、その雌のレベルは最底辺だし、貴方のレベルも最底辺のクズだと思います」




「ぐああああああああああッ!」




 そこまで言わなくてもよくない? と思ってしまうほどの殺やりっぷり。




 凜はそう言い放つと、再び席について食事を再開した。


 優斗は恥ずかしくなって、その場を逃げ出すように走っていった。




「今日も懲りないね、山崎先輩」


 優香が、他人事のように言う。




 山崎優斗、という人間は凜が入学当初から告白を継続している。何を言っても、聞かない。


 止める方法は、ただ一つ。


「付き合っちゃえば~?」




「付き合うとか、絶対無理。あんなの、めちゃくちゃにされるか、全然だめのどーてーで、何にも楽しくないでしょ。第一、好きでもない人と付き合えないから」




 だんだんといつもの調子に戻っていく、凜。先ほどの威嚇するような低音は、中音にまで上がった。




「こーんなに、かっわいいーのに、男嫌いで誰とも付き合わないなんて~っ! 本気で好きになった人が現れたときに、恋愛したことないなんてバレたら大変だぞ~」


 うりゃうりゃ、とほっぺをぐりぐり押される、凜。




「……優香ちゃんだって、可愛いのに彼氏いない」


 少し怒ったように、凜は言う。


 優香という少女は、ワンレンのショートカットでスタイルも良く、胸も凜程ではないがそれほどにある。


 学校では凜に次ぐ美人で有名だ。




「私はいいのー。彼女がいるから」


 にやっとして、自慢げに、優香は言う。そして、一枚の写真を凜に見せつけた。


 垂れ目の、柔らかいショートカットの女の子。年はきっと変わらないぐらいの。




 実を言うと、彼女には、彼女がいる。もう付き合って三年になる、彼女が。毎日毎日凜はこの時間、優香ののろけ話を聞かされている。


 だから、うんざりして『彼氏いない』などと言ってやったのだが、逆効果だった。


 今日も今日とて、ラブラブらしい。




「かわいっしょ? アンタも早く彼女でも彼氏でもいいから作んなよ」


「……ッチ」


「うわ、こわー。八雲さまが、舌打ちしたわよ。SeeRealに上げたろ」




 パシャパシャと写真を撮られる。


 しかし、凜は無反応。




「どしたん? 凜?」


「……やっぱり、男には慣れておいた方がいいのかな」


「え?」




 凜が、ここまで男を嫌う理由はただ一つ。過去に何度も、そう言った被害に遭ったからだ。中学時代が一番ひどく、一人で外を歩いていれば必ずと言ってもいいほど、奴らが現れた。




 だから、龍之介と一緒に登下校をしていた。




 今でも電車など密集しやすい場所では、簡単に引っ張れるように防犯ブザーを持ち歩いているほど。




 それほどまでに怖い思いをした彼女にとって、男とは、雄とは、獣である。










 それを凜は今この瞬間、向き合い受け入れようとしている! 何故かわからないが。


 中学時代からの親友として、非常に感動する優香だった。




 男なら、誰でも反応してしまう彼女の隣にいると、トラブルはつきものだったため。


「私の仕事が減る……」


 涙を流しながら、感動に浸る優香。




「あ……」


 凜が、お弁当箱を包もうとした時、あるものに気が付いた。


 龍之介が書いた、小さなメッセージカード。そこには。




『午後の体育、頑張ってな! バレーボール、スパイク決めろよ!』


 という言葉と、可愛い猫がトスを上げている絵。




「ふふ」


 嬉しくてたまらない凜は、すぐさま手帳を出しそのカードを張り付けた。手帳は、龍之介が毎日書いてくれるこのカードを保存しておくためのものだ。




「飽きないね。毎日そんなことやって」


「……だって、りゅうのこと大好きだもん」


 そう言って、凜はスマホで龍之介へ向けメッセージを送る。




『りゅう、メッセージありがとう。バレーボール頑張るから、帰ったらおいしいご飯いっしょにたべよう』


 送信。




「あっ、そうだこれ上げるよ。男嫌いを克服する、私のとっておき!」


「ん?」




 突然、優香が言い出すから何事かと思うと、優香はスクバをがさごそと探る。




「あった、あった!」




 取り出されたのは、一冊のマンガ。


 名前は――――オレ様キ○グダム。三人の男子、一人の女子、そして一匹の猫。




「……いい」


「ええ~っ? 面白いのに~」


 凜は立ち上がった。まだまだ、昼休みの時間はある。いつもだったら、チャイムが鳴るまで話しているのだが。




「凜? どっか行くの?」


「うん」








「―――告白しに、行く」






「え?」







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