第5話「呪いの鍵と崩壊する世界」

蓮が目を覚ますと、そこには見たことのない静寂が広がっていた。空は漆黒で、星も月も存在しない。ただ、深い暗闇が無限に広がっている。


「……ここはどこだ?」


自分の声が驚くほど遠くに響くのを感じる。その時、足元から淡い光が現れ、ぼんやりと形を浮かび上がらせた。それは、これまで蓮が関わってきた四人の王女たちの姿だった。


彼女たちは美しい微笑を浮かべているが、その瞳は冷たく無感情に見える。そして、四人が口を開いた。


「ありがとう、蓮様。これで私たちは救われました。」


「救われた……?本当にそうなのか?」


蓮が問いかけても、彼女たちの表情に変化はない。ただ、同じ言葉を繰り返すだけだ。


「あなたが全てを受け入れてくれたことで、呪いは解かれ、この世界は安定しました。」


蓮は腕を見下ろした。そこにはこれまでの痣がなくなっていたが、代わりに全身が淡い光に包まれ、徐々に崩れていくのを感じる。


「これが、俺の役割だったのか……?」


蓮の声に、今度は異なる声が答えた。それは、これまで何度も聞いたことのある囁き声だった。


「お前の役割は終わった。そして、お前は再び始まりとなる。」


蓮の目の前に現れたのは、巨大な鍵の形をした存在だった。その表面には、今までの「鍵」として犠牲となった者たちの顔が無数に刻まれている。


「お前は繰り返す。何度でも繰り返す。」


「繰り返す……って、どういう意味だ?」


「この世界は不完全だ。存在するためには、お前のような存在が必要なのだ。お前の犠牲によって、王女たちはその役割を果たし、世界は形を保つ。」


蓮の胸に怒りが込み上げる。


「俺を利用して、ただ生き延びるためだけに作られた世界だっていうのか?こんなものが、本当に存在する意味があるのか?」


鍵は静かに答える。


「それを決めるのはお前だ。しかし、お前が否定したとしても、始まりはまた訪れる。」


蓮は言葉を失い、ただその場に立ち尽くした。全てを受け入れることはできない。しかし、全てを否定することもできない。彼の存在そのものが、この世界に埋め込まれた一部であることを理解してしまったからだ。


王女たちが近づいてくる。その顔は美しくも、どこか作られたような歪みがある。


「私たちはあなたを愛していました。だから、感謝しています。」


蓮はその言葉を聞きながら、頭を振った。


「それは本当の愛じゃない。ただの作り物だ……俺を縛るための幻想だ。」


王女たちは答えず、ただ蓮を見つめ続けた。そして、蓮の身体は完全に崩れ始める。


「……終わるのか?」


彼は最後に呟き、意識を闇に落とした。


再び目を覚ますと、そこは現代の自室だった。窓の外からは見慣れた都会の風景が広がり、時計の針が規則的に進む音が響いている。


「夢だったのか……?」


蓮は腕を見下ろす。痣はなくなっている。だが、机の上には異世界で見た運命の書と同じ模様の鍵が置かれていた。


彼は手を伸ばすが、触れることはできない。ただ、その鍵が淡い光を放つのを見つめながら、呟いた。


「……俺が選んだ結末は、これで良かったのか?」


鍵が微かに輝き、その後完全に消えた。蓮は胸にわだかまりを残しながらも、何が現実で何が虚構だったのかを知る術はない。

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