第2話「優雅な微笑みの裏に隠された影」
月の国を後にした蓮は、セリアの案内で次の国――「陽の国」へ向かう馬車に揺られていた。輝く金色の麦畑が広がる平原。その美しさに一瞬見惚れるものの、蓮の胸には不安が募っていた。
腕に浮かぶ黒い痣。アイリーンから告げられた「愛」と「呪い」。未だ真意の見えないまま、彼の中には薄暗い疑念が広がり始めていた。
「……この痣は一体なんなんだ?」
蓮が小さく呟くと、セリアが目を細めて笑う。
「それは、私たちがあなたに示す証よ。誇りに思っていいわ。だって、私たちはあなたを選んだのだから。」
「誇りに……? どういう意味だ?この痣は呪いじゃないのか?」
「うふふ、そんな顔しないで。」
セリアの声には楽しげな響きがあったが、その瞳の奥には何か別のものが宿っていた。
「陽の国に着けば、もっと詳しいことが分かるわ。そこには私たちの国を治める『真実の書』があるの。」
陽の国の城は、まるで黄金でできたように輝いていた。明るい光が城内の大理石の床に反射し、豪華絢爛な空間を作り出している。しかし、蓮はその光景に心を奪われるどころか、どこか落ち着かないものを感じていた。
「さぁ、この部屋で待っていて。私は少し準備があるから。」
セリアがそう言って去ると、蓮は広間に一人取り残された。
天井から吊るされたシャンデリアがキラキラと輝き、周囲には豪華な装飾品が並んでいる。それなのに、静寂が異様だった。蓮は周囲を見渡し、思わずつぶやいた。
「ここ、本当に人が住んでるのか?」
その時、不意に後ろから声が聞こえた。
「……あなたは疑問を持つ人なのね。」
振り返ると、見知らぬ少年が立っていた。肌は青白く、薄汚れた服をまとったその姿は、この煌びやかな城には不釣り合いだった。
「誰だ、お前?」
少年は蓮の問いには答えず、ふっと笑みを浮かべた。
「君がここに来たのは、偶然じゃないよ。でも、すぐに答えを知ろうとは思わないことだ。」
「何の話だ?」
「真実を知るのは、時に苦しみを伴うものさ。」
そう言うと少年はふっと消え、蓮の目の前には輝く鏡だけが残されていた。
その夜、セリアが蓮を呼び、謎の部屋へと案内した。部屋の中央には、古びた本が台座に鎮座している。それが「真実の書」だという。
「さぁ、蓮。これを開いてみて。」
セリアの声は穏やかだったが、どこか強制するような響きがあった。
蓮が震える手で本を開くと、中から金色の光が溢れ出し、文字が宙に浮かび上がった。その瞬間、彼の頭の中に大量の記憶が流れ込んでくる。
彼が見たのは――王女たちの国が滅びの危機に瀕している映像。そして、その危機を救うために「鍵」と呼ばれる存在が召喚され続けた歴史だった。
だが、その歴史の最後には、次々と消えていく「鍵」の姿があった。
本を閉じた蓮は、震える手で額の汗を拭った。
「……これ、どういうことだ?」
「私たちを救うには、あなたが必要なの。」
セリアは淡々と答えた。その表情は美しい微笑みをたたえていたが、その瞳にはどこか空虚さがあった。
蓮の頭の中には、少年の言葉が浮かんでいた。
「真実を知るのは、時に苦しみを伴うものさ。」
彼は自分が巻き込まれた状況の異常さを理解し始めると同時に、そこから抜け出す手段が見つからないことを悟り、恐怖を覚え始めていた。
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