第8話 初動のカギ
それから数日後、祐介は担当患者の状態が少しずつ悪化していることに気づいた。その患者は70代の男性で、入院当初は落ち着いていたが、ここ数日で食欲が低下し、呼吸も浅くなっていた。
「高橋さん、この患者さん、ちょっと様子がおかしい気がします。昨日から酸素の使用量が増えていて……」
祐介は美咲に相談する。彼自身、何かがおかしいと感じていたが、具体的にどこが問題なのかが掴みきれていなかった。
美咲は祐介の言葉を聞くと、患者のバイタルサインや電子カルテを確認し始めた。彼女の動きは的確で、無駄がない。
「祐介くん、この人は感染症の既往歴があるわね。今の状態を踏まえると、血液培養を取るべきだと思うわ。でも、それだけで十分だと思う?」
祐介は少し考え込んだ。
「点滴の挿入部位も確認したほうがいいかもしれません。感染源の可能性がありますし……」
「そうね。他に何か気になるところは?」
美咲の問いかけに、祐介は患者の全身を改めて観察した。点滴ルートだけでなく、褥瘡のリスクがある部位や、呼吸音の異常もチェックし始める。その間、美咲は口を挟まず、祐介が自分で考えるのを待っていた。
数時間後、検査の結果が出ると、患者は敗血症の初期段階であることが判明した。すぐに抗生剤の投与が始まり、祐介はその処置を手伝うことになった。
「祐介くん、今日の対応はよかったわ。自分で考えて行動しようとしていたのが伝わった。」
美咲が声をかける。
「でも、僕はまだ全然自信がなくて……結局、高橋さんに頼ってしまいました。」
祐介は肩を落とした。だが、美咲は優しい笑顔で彼を励ました。
「誰だって最初はそうよ。重要なのは、次にどう活かすか。今日あなたが気づいたことが、これからもっと多くの命を救うための力になるの。」
祐介はその言葉に救われ、次はもっと自分の判断で動けるようになろうと決意した。彼にとって美咲の存在は、ただの先輩ではなく、目標そのものになりつつあった。
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