第5話:第六騎士団(3)

食堂に着くと、入り口の側に料理場と繋がる低い棚が目に入った。

棚と言っても、食堂から料理場を遮っているものではなく、どちらからも物が置けるようなものだ。


その棚に、1つだけ料理が置かれていた。

よく見ると料理が置かれている場所の下に、カナンと書かれた名札がついている。


他の棚にも同様に、名札がついてた。

どうやらこの棚に料理が置かれ、それを団員が取っていくシステムなのだろう。


(王宮との生活スタイルと違いすぎる...)


これが素直な僕の感想だ。


王宮では、食事は必ずハリファが自室に持ってきてくれていた。

普通の皇族や貴族であれば、みんなで集まって食事を取るのが一般的だが、僕はあの魔力事故以来、家族との食事には参加できていない。


そんなことを思いながら、僕は自分の料理を取り、適当に席につく。

料理の中身は、スープと大きな肉の塊、そして、円形の平べったいパンであった。


備え付けられていた木造のフォークとナイフを手に取り、肉を食べていく。

木造のナイフとフォークのせいなのか、肉を切るのに少し苦労したが、何とか一口サイズに切って、肉を口にやる。


肉はかなり濃い目で味付けされており、癖になる味だ。


次はスープを食べようと思ったが、冷めていたので味は分かりづらい。

僕はフエ婆が、「暖かいご飯を用意している」と言っていたのを思い出した。

恐らく、僕が食事を食べるのが遅れたせいで、スープが冷めてしまったのだろう。


(フエ婆には謝らないといけないな...)


僕はパンをちぎりながら、申し訳なさそうに食べていく。


それにしても、僕は第六騎士団にどこか居心地の良さを感じてしまっている。


なぜかは自分でも分からない。

ただ、先ほどのフラハードの言葉。


『第六騎士団では身分なんて関係ない。』


この言葉が僕の心に深く刺さった。

僕はどこにいても疎まれ、厄介者扱いされていた。


そんな自分を「過去など気にせず、対等に扱う」と言ってくれているような気がしたのだ。


これは僕の解釈なので、フラハードが本当にそう思って言ってくれたのかは分からない。


ただ、その言葉を聞いて、僕の冷え切った心が少し暖かくなったのは確かだ。


そんなことを思いながら、僕は自分の食事を食べ終わった。


「食器ってどうすれば良いんだろう。」


僕が食堂をキョロキョロと見渡していると、食堂に誰かが入ってきた。

フエ婆である。


「おやおや、カナンさんではありませんか。

 ご飯を食べられたんですね。」


僕はその声にどう返した良いのかわからず、とりあえず頭を下げる。


「お口に合いましたでしょうかな?」


「美味しかったです。ありがとうございます。」


僕は当たり障りのない感想を口にしていた。


だが、その言葉を聞いて、フエ婆はしわくちゃの笑顔を見せた。


「それは良かったです。

 帝国の皇子に気に入られるようなお食事をお出しできて何よりです。」


(フエ婆も僕の身分を知っているんだな...)


知っていて、このように接してくれているのだと思うと、僕はどこか不思議な感覚に襲われる。

ただ、この不思議さを僕はまだ言葉にすることができない。


そして、僕は何を言えば良いのか分からなくなり、しどろもどろになってしまう。


「そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ。

 今のは老婆なりの感謝を申し上げただけですから。

 その食器は片付けておきますから、お風呂場にてゆっくりと体をお休みくださいな。」


「あぁ、、、ありがとう、ございます。」


そんな僕の様子を気遣ってか、フエ婆は優しく僕に語りかけてくれる。


僕はフエ婆の気遣いに、喉まで出かかった言葉が何度も消えていく。

フエ婆が僕に接してくれる態度や感情に対する応え方が、いくら考えても出てこない。


何故出てこないのかも分からない始末だ。


「おや、どうされましたか?」


席を立たずにじっと考え込む僕を見て、フエ婆は心配そうな目を向けた。


「いや、何もありません。では、食器をお願いいたします。」


僕は自分の考えを隠すように、フエ婆に食器を託して、席を立つ。


そして、その足でそのままお風呂に行こうと思った時に、あることを思い出した。


「フエ婆さん、お食事を冷ましてしまってすみませんでした。」


そう言うと、フエ婆は「次からはあったかい内にご飯食べにくるんだよ。」と笑顔で返してくれた。


僕はひらひらと手を振るフエ婆に一礼し、そのまま風呂場へ向かう。

フエ婆への自分が取った態度を少し後悔しながら。


◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎


お風呂に上がり、僕はそのまま自分の部屋に戻る。

部屋に戻る廊下には、部屋から漏れ出る光が少しずつ見え、所々に話し声が聞こえていた。


自分の部屋に着き、扉を開ける。

明かりは消えており、自室にはフラハードの姿がなかった。


(どこかに行ったのだろうか?)


そんなことを思いながら、僕はやることも無いので、自分のベッドに登り、横になる。

明日も朝が早いので、僕はそのまま眠りにつくことにした。


心が揺れる。

そんな1日だったと今日を振り返りながら。


◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎

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