第3話



 告白なんてイベントはなかった。

 自分の中で「彼女は俺のもの」という意味不明な自信があった。

 それは何故か絶対的なもので、若かったんだろうと今では思う。



「まあ、そうなるだろうと思ってたよ」



 俺と彼女の関係を知ったヤツは、そう言って笑った。

 ヤツの彼女への気持ちに気付いてた俺は、少しだけ心が痛んだ。

 痛んだけどどうしようもなかった。



 俺ら3人は大学から都会へ進出した。



 就職先はさすがに別だったけど、いつの間にか当たり前のように俺と彼女は一緒に暮らすようになってた。

 彼女は俺の隣にいるのが当たり前だった。

 当たり前のように彼女は俺の隣にいた。



 ―――でも。



 いつしか歯車が狂い始めた。



 一緒に暮らし始めて楽しいのは、最初の数ヵ月だけだった。



「靴下なんでいつもここに脱ぎっぱなしにするの?」



 何でって言われても、そこで脱ぎたかったから。



「ティッシュ!鼻かんだティッシュ、そのままにするの止めてよ!」



 後でまとめて捨てるんだよ。



「またそうやって食べる前から調味料をかける!作った人に失礼だと思わない?せめて一口食べてからでしょう?」



 仕方ねえじゃん、濃い味好きなんだから。



 付き合うのと生活するのとでは全然違ってた。

 彼女は俺のすべてにイラつくらしく、いつも眉間に皺が寄るようになった。

 そんな彼女に俺の方もうんざりして来た。



「トイレットペーパー、終わったならちゃんと新しいのに替えてくんない?」

「別に食器洗ってくれても良いんだけど。仕事で疲れてるのは私も一緒なんだけど」

「そこでゴロゴロされると掃除が出来ない」

「休みだからっていつまでもパジャマでダラダラしないで」

「肉ばっかりじゃなくてちゃんと野菜も食べて」



 いい加減にしてくれよ。



 お前は俺の母親かよ?



「いい加減にして!!私はあなたの母親じゃない!!」



 もうダメじゃね?つか無理じゃね?



 俺ら遺伝子レベルで合わなくね?



 ―――ねえ気付いてた……?都会じゃヒグラシの声、聞こえないんだね



 気付いてたよ。



 都会には牛丼屋やコンビニに駐車場もない。

 田舎じゃ大型トラックが何台も停められるほど広いスペースがあるのにな。



 俺は帰って来た。



 今は半端な田舎でのんびりしてる。

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