第10話 孤独を超える灯り

春の夜、佳奈(かな)は一人で自室の窓辺に座っていた。外では桜が満開を迎え、風に揺れる花びらが街灯の明かりに映えている。誰もいない部屋、静まり返った空間に漂う孤独の重さ。スマホの画面を眺めても、そこに見えるのは他人の華やかな日常ばかり。佳奈は小さく息を吐いた。


「なんで私はこんなに一人なんだろう。」


その言葉が、部屋の中に落ちて響いた。


学校でも、職場でも、佳奈は人並みにやり取りをしていた。表面上のつながりはある。それでも、誰にも本音を話せない。誰かと一緒にいても心はぽっかりと空いたまま。「私が本当の自分を出せば、みんな離れてしまうんだろう」と、そんな恐れが彼女を縛りつけていた。


その夜、佳奈はふと、幼馴染の奈央(なお)のことを思い出した。最後に話したのは1年以上も前だ。昔はどんなことでも話せる間柄だったのに、いつしか連絡が途絶えてしまった。奈央は社交的で、明るくて、今頃はきっと充実した日々を送っているに違いない。自分のような孤独な人間が連絡しても迷惑なだけだろう――そう思いながら、佳奈はスマホを手に取った。


「久しぶり。元気にしてる?」


そんな短いメッセージを送るだけでも、心臓が跳ね上がる。送信ボタンを押した直後、佳奈は後悔の念に襲われた。「やっぱり送るべきじゃなかった」と。けれど、その数分後、画面が光った。


「佳奈!元気だよ。どうしてる?連絡くれて嬉しい!」


奈央の返信は、予想以上に温かかった。その一文が、佳奈の心をじんわりと温めていくのがわかった。


少しずつ心を開く


それからのやり取りは、不思議なほどスムーズだった。お互いの近況を交換し合い、思い出話に花を咲かせる中で、佳奈はあることを奈央に打ち明けた。


「実はね、最近、すごく孤独を感じてるんだ。周りに人はいるけど、なんだか誰とも本当の意味でつながれてない気がして……。」


画面の向こうで奈央はどんな反応をしているのかと不安になった。でも、すぐに返ってきたのは意外な言葉だった。


「私も同じだよ。」


佳奈は驚いた。明るくて友達の多い奈央が、そんなふうに感じているなんて思いもしなかった。


「周りに人がいるからって、孤独を感じないわけじゃないんだよね。でも、こうして話せる人がいるだけで、少し楽になる気がする。」


そのメッセージを読んだ瞬間、佳奈は胸の奥にあった何かがほどけるのを感じた。孤独は、自分だけの問題じゃない。誰もが抱える感情で、それを共有できる相手がいるだけで、こんなにも救われるのだと。


灯りの先に


その後、佳奈は奈央と定期的に連絡を取るようになった。直接会うことも増えたし、日々の小さな出来事を共有するだけでも心が軽くなった。奈央とのつながりは、佳奈にとって孤独という暗闇の中で灯る小さな灯りになった。


孤独感は完全に消えたわけではない。それでも、佳奈は孤独に対する恐れが少しずつ和らいでいくのを感じている。それは、「孤独と戦わなくてもいい」という思いを持てたからだ。孤独を感じても、そこに手を伸ばし、一緒に向き合ってくれる人がいる。それだけで十分だった。


窓の外では、桜の花びらが静かに舞い降りている。佳奈はその光景を眺めながら、手の中のスマホをそっと握りしめた。そして、小さく微笑んだ。孤独は、もう怖くない――そう思えたからだ。


「一緒に向き合ってくれる人がいる。それだけで、私は今日も前に進める。」

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