第5話 トレジャーボックス
「おお! またスキルが増えてる!」
ステータスを確認した
「スキルは魔法系以外だと本人の行動とか信念とかが影響することがあるのよ。あんたの場合さっきの体当たりが格闘術と認められたのね」
「てことは槍で戦えば槍術スキルを、弓矢を使えば弓術スキルが手に入るのか?」
「入るかもしれないけど、おすすめはしないわよ。系統の違うスキルばかり覚えてると器用貧乏になるって聞いたことがあるわ」
剣に槍に弓矢に格闘。確かにすべてを覚えてすべてを極めようとするのは不可能だ。
出来て二、三種類が限界だ。
一鷗はすでにふたつの戦闘系スキルを獲得している。どちらも一鷗の戦闘スタイルにあったスキルで、これらを極めようとするならば他の戦闘系スキルには手を出そうとしないほうがいいだろう。
「そういえばお前はステータス確認しなくていいのか? レベル上がったんだろ?」
「もうしたわよ。残念ながら新しいスキルは覚えてなかったけれど」
「あれ? そうなのか? ドランに触れてるの見てないからてっきり……」
「ああ、そういうこと。私はドラン様に触れなくてもステータスを確認できるのよ。世界神様の加護があるからね」
一鷗が気になって尋ねると、予想外の返答が帰ってきた。
世界神という言葉は彼女がこちらの世界に来る経緯を説明したときに出ていた気がする。
その加護があればいつでもどこでもステータスウィンドウを開けるということだろう。
「じゃあ、お前のステータスを見せてくれよ」
「嫌よ。ステータスってのは個人情報の塊なのよ。いくら家族でもステータスウィンドウは見せないものなの」
「じゃあ、俺にはプライバシー保護の権利がないってことじゃねえか!」
「ぷら? よくわからないけれど、まだギリギリ初対面もいいところのあなたにステータスを教えるつもりはないわ。スキルとかの必要な情報は教えてあげるから、戦闘に支障は出ないはずよ」
「まあ、それなら別にいいけどよ」
必要な情報を教えてくれるというのなら文句は言わない。
こちらの情報は筒抜けで、彼女の情報は精査されて伝えられるというのは少し癪だが、そもそもドランがいなければ一鷗は自分のステータスを確認できないのだから仕方ない。
ステータスの確認を終えた一鷗はメアエルとともに再び探索を始める。
それから一時間ほど一層を探索すると、下の階層へ続く階段を発見した。
▼
第二層は一層と変わらずに岩壁の洞窟だった。一層と比べて入り組んだ複雑な道をしている。
二層のモンスターも基本的には一層と同じくスライムだ。ただ、スライムと同じ数だけゴブリンがいる。
ゴブリンは大抵単独行動しているが、たまに集団で行動している輩がいるから注意が必要らしい。もっとも、その集団にはつい先程一層で出会ったばかりであるが。
「そういえばそろそろダンジョン攻略を始めて二時間が経つころか」
「そうね。あと七時間は探索が出来そうね」
「七時間!?」
メアエルのスパルタ発言に一鷗が驚く。
ダンジョンに入ったのが午後六時で、二時間経過した今が午後八時。
ここからさらに七時間となると、翌日の午前三時までダンジョンにこもるということだ。いくらなんでもスパルタが過ぎる。
「さすがにそんな遅くまでは無理だ。俺、明日も学校あるんだからせめて十時までには家に帰らせてくれよ!」
「ええ。だから本当は十二時間やりたいところを負けに負けて七時間にしているんじゃないの!」
「負け切れてねえから言ってんだよ!」
異世界人は時間の計算が出来ないのか?
どこか話が嚙み合わないメアエルの言葉に一鷗が首を傾げる。
すると、ドランが言い難そうに声を上げる。
『姫様。ダンジョンの時間の流れについてカモメ殿に説明しておらぬぞ。それではいくら話しても伝わらぬ』
「あれ? そうだったかしら?」
「ダンジョンの時間の流れ?」
一鷗がもう一度首を傾げると、今度はメアエルがちゃんとした説明が返ってきた。
「この世界と私たちの世界で時間の流れる速度に差があるように、このダンジョンの中と外では時間の流れる速度が違うのよ」
『具体的には三倍ほどである』
「三倍……てことは今はまだ六時半くらいってことか」
正確には午後六時四十分くらいだろうか。
「あと七時間ここにいても現実では二時間半ほどしか経過しないわ」
午後六時四十分から二時間半。つまり午後九時くらいか。
なるほど、確かにそれならば明日の学校に影響することもない。
「そうならそうと先に言ってくれよな。てことは実質ダンジョン攻略には三年かけられるってことか」
「だからって悠長に冒険していられないわよ。気持ち的には一年でここを攻略しきるつもりで挑んでもらわないと間に合わないわ」
「分かってるよ。余計なことで足を止めて悪かったな。さあ、早く先へ進もうぜ」
「ええ、今日中に三階層まではいきたいわ」
メアエルの言ったことを今日の目標にして、ふたりは冒険を再開する。
再開してすぐに二体のゴブリンが現れる。
「二体か……さすがに今の実力で二体のゴブリンを相手取る自身はないわ」
「だったら一体は私が引き受けるわ」
「いいのか?」
「無茶は極力しないようにするって言ったでしょ。今は無茶する場面じゃないわ」
メアエルに注意され、一鷗は気を引き締め直す。
一層でゴブリンを倒したときにレベルアップしたとはいえ、まだ相手と互角になっただけ。
思い上がってはいけない。油断は自分のみならず、味方の死をも招きかねないのだから。
「しゃあ、行くぜ!」
一鷗が叫び、一体のゴブリンに突撃していく。
視界の端では一体のゴブリンがメアエルの【ファイアボール】に焼かれていた。
さすがに魔法は強いな。
だが、一鷗だって負けていない。
「はああ! どらあ!!」
最初の一撃でゴブリンの武器を弾き上げ、浮き上がった無防備な胴体に一閃。
ゴブリンの胴体が真っ二つになり、黒い靄となって消える。
「さすがに一体だと危なげないわね」
「そうか?」
「ええ、今の戦闘見る限り二体相手でもあんたならひとりで戦えるんじゃないの?」
「いや、それはどうかな。さすがに一対一と一対二では勝手が違うだろ。複数体との戦闘はもう少しレベルを上げてから挑みたい」
「随分慎重ね」
「慎重になり過ぎて悪いことはないからな。無茶は極力しない。そう言っただろ」
「……そう」
メアエルはなにかを言いかけて言葉を呑み込む。
そんな彼女の態度に一鷗は胡乱な目を向けるがすぐに気持ちを切り替える。
「さて、探索を続けようぜ」
「ええ」
一鷗が先に歩き出し、そのあとにメアエルが続く。
そうしてふたりはダンジョンの奥へと進み始めた。
▼
二層の探索を開始してから七時間弱が経過した。
あと少しでダンジョン攻略を一時中断して家に帰らないといけない時間だ。
そんな中、一鷗とメアエルは通路の途中でしゃがみ込んでいた。
一鷗の腕の中にはドランがいる。
「あれから2レベル上がってレベル5。でもスキルは増えないな」
「スキルなんてそう簡単に増えるものじゃないわよ」
「そうなのか。──それでどうする? そろそろ時間だし戻り始めてもいい頃合いだぜ?」
「でもまだ三階層への階段を見つけられてないわ」
一階層から二階層への階段は二時間で見つかった。
それと比べると、三階層への階段探しは時間がかかっている。
だが、それは一層のときの運がよかったからだ。
実際、ダンジョンの各階層の大きさは同じくらいなのだそう。
「階段探しはまた明日やればいい。レベルが上がってゴブリン対峙も楽になったけど、疲労は溜まってるだろ?」
「……そうね。今日はもう帰りましょうか」
「おう」
一鷗の言葉に従ってメアエルは今日のダンジョン攻略はここで切り上げることにする。
ふたりで来た道をそのままなぞって帰る。
「あれ? こんなとこに脇道なんてあったっけ?」
一層へ上がる階段の傍まで来たところで、不意に一鷗が足を止めた。
そこは行きの道からは見えにくいような位置にある道で、なんだか不思議な気配が漂っている。
「もしかしたらこの先にトレジャーボックスがあるのかもしれないわね」
「トレジャーボックスって?」
「各階層にひとつ以上ある宝箱のことよ。こういう目につきにくい道の先にあることが多いの。モンスターを倒さなくても手に入るラッキーボックスみたいなものね」
「おお! じゃあ、最後にここに行ってみるか」
一鷗はダンジョンに入ってすぐに開けたラッキーボックスのことを思い出して、脇道の奥へと進んでいった。
道は一直線に伸びており、モンスターの気配もない。
長い道だが、一番奥へは五分くらいでたどり着く。
一番奥にはメアエルの予想通り宝箱が鎮座していた。
「ほんとにあったな宝箱」
「これも滅多に見つからないものなんだけど、あなたやっぱり運がいいわね」
「どうやら宝箱を手に入れることに関してだけ運が働くらしい」
そう言って決めポーズを決める一鷗。
メアエルから白い目で見られる。
「ほら、お前が開けていいぞ」
「いいの? あんたが見つけた宝箱でしょ?」
「いいよ。俺はもうラッキーボックス開けたし。こういう楽しみは分け合ってこそだろ」
「そう。なら、開けさせてもらうわね」
「おう」
メアエルはどこか遠慮気味に宝箱に手を触れると、勢いよく蓋を持ち上げた。
メアエルが宝箱の中を覗いて、中のものを取り出す。
彼女が取り出したのは水色に黒の渦巻き模様が描かれた法螺貝のような形の笛だった。笛の側面には御札が貼り付けられている。
「なんだか禍々しい笛だな……」
「魔道具みたいだけど……ドランさま、なにかわかるかしら?」
『申し訳ない。我の知識にもないものだ』
「そう……まあ、使ってみれば分かるわよね」
「馬鹿、待て──」
一鷗が待ったをかけるよりも先にメアエルが笛に口を付け、息を吹き込んだ。
奇妙な音色が笛から響く。
「うぇ、気持ち悪い音! なにこの魔道具?」
「いいからを音を止めろ! 正体不明のものを勝手に使うとかお前は馬鹿なのか!」
一鷗がメアエルの手から笛を奪って口を塞ぐ。すると、音がピタリと止んだ。
一鷗がホッとする。
「馬鹿とはなによ! 気になったんだから仕方ないでしょ!」
「仕方ないってお前なあ。とにかくここを離れるぞ。なにが起こるか分からねえ」
一鷗は怒るメアエルの手を引くと、急いで脇道を駆け戻った。
脇道の入り口に辿りつくと、なんだか地面が揺れているような感じがする。
「地面が揺れてる?」
「それに、なんだこの音は……?」
一鷗が耳を澄ませると、遠くからドドドドと音が聞こえてくる。
音は段々とこちらに近づいており、そしてついに音の正体が判明した。
一鷗たちが引き返してきた道から大量のスライムがこちらに向かって走ってきているのだ。
それを見た一鷗とメアエルが顔を青くする。
「モンスターを寄せ集める魔道具じゃねえか!!」
「きゃあああああ!!」
「逃げるぞ!!」
一鷗はメアエルの腕を掴むと、レベルアップで向上した身体能力を存分に活かして、スライムの群れを突き放す。
そのまま一層を上がり、ダンジョンの入り口まで戻ると、ふたりはダンジョンの外へと飛び出した。
暗くなった廊下で、ほっと一息。
全力疾走したふたりはそこで少し休むと、見回りの警備員に見つかる前に学校を飛び出した。
帰る道中。モンスターを寄せ集めた危ない魔道具はドランの口内に永久に封印されることになった。
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