第3話 魔王は絡まれる
この世界に来てから変だ、どうも調子が狂う。
「おい、あんちゃんよぉ……」
「新入りのくせに……」
俺を取り囲むのは5人ほどの男たち、みなよく鍛えられている。
そんな屈強な男たちが俺を取り囲み口々に何か言っている。
出来ればこの場で注目されるようなことはしたくはなかったのだが、なぜ毎度この俺が苦労せねばならんのだ。
エメリア助けてく……あっ、あいつ目を逸らしやがった。
いやまぁ、これが敵ならなんの問題も無いんだ。
そう、なんの問題もない。敵なら軽く吹き飛ばせばいいのだ。
ただし、問題は……。
「あんちゃんすげーなー!」
「あいつ前から俺の女にちょっかいかけててうざかったんだよなー。あんちゃんのおかげでスッとしたぜ」
こいつらは敵ではないと言うことだ。
時間は少し遡る。
俺とエメリアは街の散策をするために北門で待ち合わせたのだが、お互い観光などしたことがないので、ひとまず冒険者ギルドに顔を出すことにした。
そうして冒険者ギルドの前で街の案内を受けていたその時である。
「おいそこの女、この私について来い」
背後から急に声がして振り返ると、そこには護衛を連れた男がエメリアを指差していた。
男は豚のように丸々と太り、宝石をジャラジャラと身につけている。
あぁ大方どこかの貴族のボンボンだろうな、此処は穏便に済まして逃げる手段を……。
「えっ嫌です、丁重にお断りします」
えーと、エメリアさん? 何を言っているのですか?
その答えはより状況を悪化させるのですが……。
「おい女、それは私がカリヌ商会の党首の息子と知ってのことか?」
「知りませんし、それが私を連れていくことに関係するとは思えません。そもそもあなたに魅力を感じないので、お引き取りください」
こいつには外交能力が欠落しているのかな?
どう考えても面倒なことになるだろ、それは。
ほら豚男を見てみろ、顔を真っ赤にして怒りに震えてるし、周りは青ざめ若干距離を置き出してる。
「あのー、ちょっといいか? 俺たち一応Sランクの冒険者なんだ。Sランクの冒険者には貴族に近い地位が……」
「お前たち、男は殺してかまわん。この女を捕えろ」
あーこっちも、というかこっちの方が馬鹿だった。
「エメリア、集団戦なら俺に任せろ。いい魔法がある」
「いいよ、私がやるから」
「いや、お前だと確実に怪我人出すだろ。いいから俺に任せとけって」
「何をごちゃごちゃ言っているんだ。お前ら、やれ!」
俺は若干脹れ顔のエメリアを尻目に飛びかかって来た男たちに掌を向け呪文を唱えた。
「<ナイトメア>」
すると、俺の手から濃密な
徐々に周囲が霧に覆われていき、次々に倒れていく男たち。
その状況を見ていた豚男が護衛の一人を蹴りながら叫ぶ。
「何をしている! とっとと捕まえんかこの役立たず共が」
「無駄だよ、そいつらは今寝てる。しばらく目が覚めることはないだろう」
「なに! 貴様、殺してやる!」
俺に殴りかかる豚男。
その肩を掴む者がいた。
「なんだ! 貴様も刃向かヒィッ」
そこにいたのはひどくやつれ、まるで死人のようになった護衛だった。
あたりを見ると他の護衛たちも同様の状態になり、ゾンビのような足取りで豚男に寄って来る。
「おぉまえたち、何をしている! なぜ私のほうにくるんだ、やめろ、来るな。来るなぁぁぁー!」
「やっと行ったか」
「ねぇガリアス、この状況どうするの?」
逃げて行く豚男を見送る俺に、エメリアが話しかけてくる。
その足元には
「ちょっと眠らせただけだ、じき目を覚ます」
ナイトメアなんて魔法はない、周りの護衛は<スリープ>で眠らせて、豚男には幻覚を見せただけだ。
第一、生きた人間を操るなんて非効率なことをする意味がないしな。
「あー、ガリアス、そう意味じゃなくて……」
「なんだいっ……たい」
周囲を見て気付いた。
――めちゃくちゃ注目されてた。
そりゃそうだよなー。
街中であんな派手に揉めたんだ、注目されないほうがおかしい。
さてどうしたものか、若干ざわついてるし今の間に逃げてしまおうか。
「おいあんた」
それなりにガタイのいい男がギルドから出て来て声をかけられた。
「さっきのあれ、あんたがやったのか」
「だったらなんだ?」
「あんた……」
男の顔から表情が消えたのを見た俺は咄嗟に身構え……。
「よくやった!」
え?
俺が呆気にとられていると、その直後背中をバシッと叩かれた。
「あんちゃんナイスだ、あいつにはちょっとばかし恨みがあってなー。一杯奢ってやるからそっちで話そうぜ」
「いや、俺は……」
「遠慮すんなって。ほらこっちに来い」
「あっ、ちょまっ、引っ張んなって」
そんなことがあり俺は今数人の男たちに囲まれることになっていた。
「あんちゃん此処らじゃ見ねー顔だな、どっから来たんだ?」
「にしてもあいつの逃げる時の顔みたか? ありゃ最高だったぜ。あんたもそう思うだろ?」
どうすりゃいいんだこの状況。
俺は街のことを知りたかっただけなんだ
が……。こそっと抜け出そうとしてもすぐ捕まってしまう。
どうしようか悩んでいると最初に話しかけて来たがたいのいい男が話しかけて来た。
「騒がしくてすまんな、元々こういう奴らなんだ」
「あんたは……」
「バモンだ、冒険者をやってる」
「俺はガリアスだ。ここには来たばかりでな、出来れば仲良くしてもらえると助かる」
「ああ、これからよろしくな。
「ガリ坊? まさか俺のことじゃないよな。俺は坊主って歳でもないんだが……」
「誰が見ても坊主だろ」
そんな事は……ないとは言い切れないな。
俺の見た目は多く見積もっても17歳かそこらだという事を思い出し、何を言っても無駄だろうと観念した俺は、諦めて話を進めることにした。
「そういえばさっきの男は一体なんだったんだ? カリヌ商会がどうとか言っていたが」
「あぁ、あいつか」
バモンは少し顔を曇らせ、少し躊躇うような表情を見せたが話してくれた。
「あいつの名前はユンゲル・ラースカリム。王国の中でも1.2を争う大商会、カリム商会現当主の息子だ」
どっかのボンボンだとは思っていたがそこまでの相手だったのか。
「幼少期から甘やかされて育ったみたいでな、傲慢で自己中心的、気に入ったものはどんなことをしても手に入れて、飽きたら捨てる。」
「絵に描いたようなクズだな」
「あぁ、実際俺たちも苦労して手に入れたレアなアイテムを奪われたり、勝手に通行料を取ったり、中には彼女や嫁を連れてかれた奴らもいる。ちょうどさっきみたいにな」
あの豚男ただの強引なナンパかと思ったが想像以上のやつだな。
だが……。
「なぜ誰も声をあげないんだ? それだけ被害があれば警備隊も動いてくれるだろ?」
「みんな何回も警備隊に言ったさ。でもあいつら動くどころか、次騒いだら俺らを逮捕するとまで抜かしてやがる」
相当悔しいのが見て取れる、バモンの右手は硬く握られていた。
「どうやら父親が裏でかなりの圧力をかけてるらしい、ギルドの方も見て見ぬふりだ。あんたも来たばかりならとっとと王都から出たほうがいい。あんなことしたんだ、あいつがどんな手を使ってくるかわからねー」
バモンは俺やエメリアの身を案じているのだろう。
まぁ幸い俺らの裏には王家がついてる、必要があればそっちを頼るとしよう。
「忠告感謝する、十分注意しよう」
「そうか、そういえばあんた、その服貰い物か? 特にそのローブのサイズあってないだろ」
なぜバレた、流石に裾を引きずって歩くのは不恰好なため魔法でサイズを調節していたのだが、素人が見てわかるようなものではないと思うのだが。
「よかったらうちで仕立て直そうか?」
「お前服屋が何かなのか?」
「一応本職は鍛治師なんだよ、材料やらなんやらの関係で冒険者やってるだけだ」
それなら納得だな。
「そういうことなら世話になろうか」
そろそろ喧騒も落ち着いた頃だ。
俺はエメリアを呼んでバモンの工房に行くことにした。
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