第2話 魔王が転移した世界
「勇者ガリアス、そして勇者エメリア、突然の召喚にもかかわらず襲撃者を撃退してくれたこと、国の代表としてとして感謝する。」
白髪交じりの大柄な男の声が、玉座の間に響く。
黒騎士を倒した俺たちは現在、この国の王に謁見していた。
誰かに頭を下げるなどいつ以来であろうか。
ちなみに1人称を『俺』と言っているのは、エメリアに「魔王っぽい話し方はダサいからやめて」と言われたからだ。
たしかに17歳位の見た目で『我』は少々痛いかもとは思っていたが……ダサいとまで言わなくてもいいだろ。
さて、話を戻そう。
王の名はラゲル・スタムベルト、スタムベルト王国の
総王というのは、この国にいる4人の王をまとめる代表のようなものだ。
元々人間族の国は4つあったが、魔王の急激な勢力拡大に1国では太刀打ちできないと考え、1つの国としてともに歩むことにしたという。
ちなみにだが本人はあまり贅沢を好まないらしく、服装も上質な生地を使ってはいるものの装飾はほとんどない。ただ彼の風格ゆえに見くびる様なものはいないだろう、それだけの重厚な空気を纏っていた。
「おぬしらを召還したのは他でもない。この世界を脅かす魔族の王、すなわち魔王を討ち倒し、世界に再び光をもたらしてほしい。そのためなら支援は惜しまぬと約束しよう」
なるほど、自分達で対処できる限界を迎えた故に勇者を呼び、助けを求めたということか。
一応筋は通っているな。
とは言っても、勝手な事情で突然呼び出された側としては納得できないがな。
「引き受けてもらえるだろうか」
「まぁ、どうせ呼び出された身だ、引き受けよう。エメリアも良いか?」
「それで良いわよ、あの黒騎士の言ってた事も気に食わなかったし」
「勇者方、引き受けてくれた事感謝する」
「だが、一つ聞きたいことがある」
「申してみよ」
「俺たちが助けた対価として、お前たちは何をするんだ?」
「ちょっとガリアス」
「エメリア、これは非常に重要なことだ。世界を救えと言われてなんの対価もなしに引き受ける訳がないだろ」
「無論、相応対価は支払おう」
真っ直ぐ未来を見ているかの様な目だ、これならひとまず引き受けても良いだろう。
「わかった」
「それでは、後ほど部下から勇者方に支援の説明などを行う、それまで用意した部屋でくつろいでいてくれ。それはそうとこれは我の率直な疑問なのだが、勇者方は知り合いの様子、一体どの様な関係なのだ?」
言えない。
元魔王とその敵の勇者ですとは流石に言えない。
俺は曖昧にして誤魔化すことを選んだ。
――――
「はぁー、疲れたー」
あの後支援についてなどの説明をたっぷり3時間ほど受けた俺は、現在城下にある町、すなわち王都の宿でベッドに体を投げ出し脱力していた。
なぜ王都の宿かというと、俺たちが勇者だと広く知られてしまうと身動きがとりにくくなるからだ。
無論勇者と知られていれば王家の名を出すことが容易にできるが、その反面様々な場所で注目を集めてしまう。
それは避けたい、どこに行くにも監視されているかのような生活はもう嫌だ。
それ故にこちらから願い出て、冒険者がよく用いるという宿をとることにした。
「にしてもかなりの支援体制だな、まぁ世界規模の問題の対処なのだから妥当……いや、足りないくらいか」
国からの支援は以下の通りである。
一つ目。
支援金、及び魔王討伐に関連する出費を全額国が負担する。
ただし当たり前だが嗜好品などは個人負担である。
二つ目。
S級冒険者の資格を授与。
冒険者の登録をしておけば、冒険者証が身分証としての役割を果たすし、個人で依頼を受け金銭を稼ぐ手段にもなる。
ただギルドという組織に所属するという立場上、面倒な仕事などが回ってくる可能性も考慮しなくてはならないが……。
これ1つで様々な恩恵を受けられるのなら致し方があるまい。
三つ目。
個人的にはこれが一番興味深かかった。
それが、王国図書室及び禁書の閲覧が可能。
これを利用すればこの国や世界についてさらに知ることができるだろう。
今日、王国図書館で少し調べただけでもかなりのことが分かった。
まず魔法についてだが、法則は大方は俺のいた世界とおなじだということが分かった。
この世界には魔力と呼ばれるエネルギーがある。
魔法を使う際はその魔力を、詠唱や魔法陣などの所謂『型』に込め形にするのが一般的だ。
それから、この世界には俺たち人間族のほかに、獣人族、ドワーフ族、エルフ族、魔族の4つの種族があるらしい。
今はこの程度しかわかっていないが今後も調べる価値がありそうだ。
明日は書庫にでも篭ろうかな、などと考えていると誰かが扉をノックする音が。
「誰だ? ってエメリアか。こんな時間に何か用か?」
「明日って予定ある?」
「いや、特に決めてはいない。それがどうしたんだ」
「なら明日町に行かない?」
「えっ……ああ、かまわないが」
「なら朝10時に北門で集合で。それじゃ!」
バタン
どこかのタイミングで王都を見て回ろうとは思っていたが、まさか向こうから誘ってくるとは思っていなかった。
少し驚いたが親睦を深めるいい機会だろう、俺は次の日に備え休むことにした。
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