新生の喜び
強くてクソゲーム
「この間は惜しかったな」
「何の話ですか?」
「国土を売って、放浪の旅に出た王様達の件だよ」
自称用心棒は店の外から買ってきた麦茶を飲みつつ、コーラル王国の住民達について話し始めました。
「彼らは天使達と……<源の魔神>と敵対していた。だからあのまま戦い続けてくれれば、源の魔神に命を狙われているアンタとしては好都合だっただろ?」
質屋の店主は彼の魔神と敵対していました。
店主がコーラルの人々と取引をしていたからこそ、それを嫌った源の魔神は予定より早くコーラル王国と諸国を滅ぼすために動いたのです。
最強の神とも言われる源の魔神に付け狙われている店主にとって、源の魔神にけしかけられる手勢を手に入れる好機だったんじゃないか――という話だったのですが、店主はその辺りには興味がないようでした。
「私は店を利用していただければそれで満足ですよ。彼らの選択には驚きましたが、私の目的を考えれば彼らの理性的な判断こそ尊ぶべきなのでしょう」
「そういうもんかね」
「そもそも、私は源の魔神の敵ではありませんよ。やんちゃな弟が追いかけてきても、兄としては笑って逃げるだけです。砂浜でアハハウフフと駆け回るように弟の追跡から逃げ続けて楽しむだけです」
「その弟、包丁を振りかざしているから気をつけた方がいいし……そもそも向こうはアンタを『兄弟』とは思ってないだろうよ」
「まあ正確には違いますからね」
店主は――
「私としては弟と仲良くしたいと思っているのです。彼もまた私が奉仕すべき理性的動物の一員ですからね」
「仲良く、ねぇ……」
「先達として、家族と仲良くなるコツを教えていただけませんか?」
「一切の取引をやめない限り、敵視され続けるだろ。お前さんが一部の天使と勝手に取引した結果、力を手に入れた天使が源の魔神に逆らうなんて事件も起こしたんだから……」
自称用心棒はジト目を店主に向け、「先に仕掛けたのは実質お前なんだよ」と言いました、店主は「悪意はなかったのです」と弁解しました。
「私はただ、『源の魔神を倒す力が欲しい』と考えた御客様達に質草に見合う力を用意しただけなのですよ」
「それで『悪意がない』と言い切る思考回路だから仲良くできないんだよ」
用心棒は頭を振った後、「まあどんな思考回路だろうと、あの魔神と仲良くできるとは思えんが……」と呟きました。
そんな話をしていると、店のドアベルがカランコロンと鳴りました。
店の扉を開いたのは、機械製の猫耳と猫尻尾を身につけた少女でした。
少女が笑顔で「こんにちは」と言いつつ店に入ってくると、店主は普段よりさらに楽しげに応対し始めました。
少女は常連客でした。店主はずっと昔から贔屓にしてくれている少女に対し、嬉しげに応対を始めていきました。
用心棒は店主がお茶を淹れに行ったのを見計らって、少女に対してやや遠慮気味に話しかけ始めました。
「や、やあ、お嬢さん。ここに何を売りに来たんだい?」
「私は技術を売りに来たんです」
用心棒は大仰な動作で驚いたふりをしつつ、「どこかで技術者をやっていたものの、転職を考える事にしたのかい?」と問いかけました。
少女は手を振りつつ笑って、「いやいや、そういうのじゃないですよ」と言った後、言葉を続けました。
「私が売りに来たのはゲームのプレイヤースキルです」
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