Rebuild~新たに始める冒険生活~



「問題に目をつむれば、再構築リビルドもアリだけどね……」


 エリタミノールは用心棒の呟きを無視し、店主に話しかけました。


 ここで買った力を質草に新しい力をくれ――と頼みました。


 取引できるのが嬉しい店主は喜んでそれに応じました。新しい力を渡す前に、まずはいま持っている力の査定を始めたのですが――。


「こちらが査定結果になります」


「…………ちょっと待て。何で寿命10年分にすら満たないんだよ!? 寿命10年分以上の価値があるはずだろ!?」


 査定結果に納得がいかないエリタミノールはそう叫びました。


 店主は査定の理由を説明しようとしましたが、用心棒は「お前さんは学習能力ってもんを買った方が良さそうだね」と言いつつ言葉を続けました。


「質草の価値はお前さんの心持ち次第。何度もそう説明されてるだろ?」


「だからなんだよ! やっぱり足下を見て――」


「お前さんが今の力に『価値を感じていない』から、価値が下落したんだよ」


 いま持っている力に疑問を抱いた時点で、価値が落ちるのは必然。


 完全に無価値になったわけではないので力の再構築は可能ですが、寿命10年と数々の戦利品や底辺時代の全財産を費やした時ほどの価値はなくなったのです。


 少なくとも今の彼の認知では――。


「次は良く考えて力を手に入れるか、もしくは地道に修練を積むかだ」


「オレが地道に頑張ってこなかったと思って――」


「あぁ、お前さんなりに頑張ってきたのはわかるよ。けど、強くなるための修練に限らず……お前さんはやるべき事を怠っていないかい?」


「何を言って……」


「そもそも、お前さんは何で強くなりたいんだい?」


 問題の本質をよく見つめ直してみな、と用心棒は言いました。


 用心棒は取引したがっている店主に「お前は黙ってろ」とピシャリと言い、エリタミノールが黙して考える姿を見守り始めました。


 何故、強くなりたいか。


 その答えをエリタミノールは持っていました。


「オレは……アイツに情けない姿を見せたくないんだ」


 年下の幼馴染みより早く冒険者になった彼は、最初で躓きました。


 魔物の恐ろしさに震え、それでも幼馴染みと共に冒険する夢を捨てきれず冒険者稼業を続けたものの、ずっと芽が出ないままでいた。


 自分を追って冒険者になった幼馴染みが――自分が荷物持ちとして虐げられている姿に憤り――庇ってくれるたびに惨めになりました。


 幼馴染みも芽が出なければ、2人で仲良く諦める事が出来たかもしれない。2人で故郷に帰れたかもしれない。けど、そんな事にはなりませんでした。


 そうなってほしいと夢見ることすらあったエリタミノールは、自分を恥じました。頭角を現していく才能ある幼馴染みを見るのがつらくなり、彼女から逃げながらも冒険者業界にしがみつき続けました。


 報われない努力に苦しみながらも、それでも夢を諦め切れませんでした。


 2人で夢を叶える希望を捨て切れませんでした。


 その話を聞いた用心棒は半ば呆れつつも笑顔を見せ、語りかけました。


「本当に大事なことは、強くなる事じゃないみたいだな」


「けど、強くならないと……」


「本当にそうかい? お前さんは自分の価値を低く見ているけど、相手の方はどうかな? 相手がどう思っているか、ちゃんと考えたのかい?」


「…………」


 エリタミノールはそこに関し、自信を持って返答する事が出来ませんでした。


 彼にとって、彼自身が価値のない存在になっていました。


 子供の頃に夢見た姿になれていないと、ずっと自分の価値を貶めてきました。


 だから、本当に欲しているものと向き合う事を恐れていましたが――。


「オレ、言わなきゃいけない事がある。……謝ってこないと」


 エリタミノールは取引をやめ、街に戻る事にしました。


 店を出る前に店主に対し、「アンタにもヒドいことを言った。ごめん」と言いました。店主は取引していない事を残念がりつつも、「お気になさらず」「力が欲しくなったらいつでも来てくださいね」と語りかけました。


 冒険者が迷いつつ、それでも向かうべき場所に向かって行った後、店主は自称用心棒に対して不満げな言葉を投げかけました。


「店内で暴力行為を行うどころか、御客様を遠ざけるとは……営業妨害ですよ?」


「破産させてばかりだと、誰も客が来なくなるだろ?」


「それは仰る通りです。ただ、あの御客様はきっとまたここに来ますよ」


 そう、きっとね。


 店主は何かを知っている様子でそう呟き、店の扉をじっと眺めていました。


 はたして店主の言葉通りになりました。


 冒険者は、さらなる力を欲さざるを得なくなったのです。



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