「べ、別にお前の事なんかどうでもいいんだからね!」~最強女拳士はオレの事を放っておけないようです~
「ばッ……! バカな……!」
エリタミノールには強くなった自負がありました。
寿命まで差し出した甲斐あって、確かに強くなっていました。
それでも幼馴染みはさらに上を行きました。
彼女は純粋な自分の力だけで決闘に勝利しました。
尻餅をついた
手を差し伸べつつ、「約束は守ってもらうよ」とも言いましたが――。
「っ……!!」
「エリタにいさん!!」
エリタミノールは幼馴染みの手を払いのけ、走りました。
路地裏に逃げ、適当な扉を潜って質屋に逃げ込みました。
逃げ込んで幼馴染みの追跡を撒いた後、再び迷宮に向かいました。
いつものようにがむしゃらに戦い、魔物を狩ってさらなる力を得ようとしました。幼馴染みに負けたからこそ、より一層、力を求め始めました。
質屋は取引に応じ続けましたが、エリタミノールの持って来た戦利品は大した値がつかないままでした。荒んだ彼はさらに荒っぽく戦うようになり、ついには質草に入れられないほど価値を失う
「お前の所為だ!! お前が役に立たない力を寄越すから……!!」
「あぁ、申し訳ありません。ですがそんな悲観的にならないでください。力の在庫はまだまだございますので、次こそは良い力を――」
「また寿命を搾り取るつもりか!? この悪魔め!! お前のせいだ!! オレがアイツに勝てなかったのも、追い抜かされたのも全部お前の――」
エリタミノールが剣を抜きつつ叫んでいると、店の奥から笑い声が聞こえてきました。それは女の笑い声でした。
「自分の無能を棚に上げて吠えるねぇ、冒険者」
笑いつつ出てきたのは眼帯をした白髪の女でした。
店の奥でくつろいでいた彼女は不敵な笑みを浮かべながらエリタミノールを指さし、「いま直ぐ剣を納めな」と言いました。
客とはいえ店主に逆らうな――と忠告しました。
「
「なんだお前」
「この店の用心棒さ」
女はそう言いましたが、店主は呆れた様子で「ただの冷やかしです。御客様ですらありませんよ」と言いました。
女は店主に「そんな冷たいこと言うなよ」と言い、店主とエリタミノールの間に割って入ってきました。
「剣を納めないならアタシが相手してやる。来な」
「やめてください。貴女はただ暴れたいだけでしょう?」
「フン。この程度の雑魚と戦ったところで『暴れた』の範疇には入らんよ」
女用心棒がそう言っているうちに、エリタミノールは動きました。
女用心棒を黙らせるために殴りかかりましたが、次の瞬間、倒れていたのはエリタミノールの方でした。
「まだやるかい? 雑魚冒険者」
不敵な笑みを浮かべる女用心棒に対し、エリタミノールは剣を抜きました。
剣どころか魔法まで振るって暴れ始めました。店主は悲鳴を上げて
ただ、一方的な戦いになりました。
エリタミノールがどれだけ力を振るっても、女用心棒は散歩でもするような気楽さで全ての攻撃を回避しました。
剣も拳も蹴りも魔法も、用心棒には一切通用しませんでした。
逆に女用心棒の攻撃は――拳による素早い殴打は――全てエリタミノールに命中しました。目にもとまらぬ拳撃は何度もエリタミノールを打ち倒しました。
頭に血が上っているエリタミノールも10度も打ち倒されているうちに逆らう気が失せていきました。悠々と構えている用心棒に「まだやるかい?」と言われ、首を横にブンブンと振って否定しました。
「手合わせして改めてわかった。弱いね、冒険者」
「お、オレが弱いんじゃない。そいつの寄越した力が役立たずだったんだ!」
エリタミノールはそう叫び、悲しげに店内の戦闘跡を掃除している店主を指さしました。用心棒は一層呆れ、「阿呆が」と言いました。
「お前が選んだ力だろ。どうせ『一番威力がある魔法がほしい』とでも考えて、その火炎の魔法を選んだんだろう?」
「そ…………それの何が悪い」
「お前さんは<造兵局>由来の火炎魔法を手に入れる前、膂力を……単純な力を手に入れていたんだろう? その2つのどこに
「…………?」
「なんて言えばいいかね。お前の
白髪眼帯の用心棒は暇つぶしに助言を与えました。
膂力も火炎魔法もそこまで悪くない。実際、迷宮ではそれなりに通用していました。浅層の魔物なら火炎で簡単に蹴散らせるほどでしたが――。
「いまのお前さんじゃ、膂力と魔法を同時に活用できていない。呪文を唱えながら斬り合えるほどの器用さもない」
「や、やろうと思えば呪文を唱えながら斬り合う事ぐらい――」
「アンタ程度の技巧じゃ、自分ごと敵を焼き尽くすだけだろ?」
「…………」
「お前はもっと相乗効果のある
例えば膂力をさらに伸ばす。比類無き怪力無双を目指す。
あるいは魔法だけに集中して伸ばす。敵を一切寄せ付けない呪文使いを目指す。
もしくは斬り合っている状態でも――自分まで焼き焦がさないような――使い勝手の良い呪文を手に入れ、真っ当な魔法剣士になるべきだった。
用心棒は淡々とそう指摘しました。「お前の戦型には無駄が多い」「まともな戦闘経験も不足している」「力任せの剣技も魔法も、大した脅威じゃない」とまで言い、エリタミノールの多くを否定しました。
エリタミノールは次々飛び出てくる否定の言葉に唖然としていましたが、直ぐに「これを手に入れるために寿命を10年も使ったんだぞ!?」と叫びました。
「それが全て無駄になったって言いたいのか!?」
「完全に無駄とは言わないよ」
用心棒は微かに同情しつつ、エリタミノールの肩をポンポンと叩きました。
「これから修練を積んでいけばいいのさ。火炎の魔法を取っかかりに別の使い勝手の良い魔法を覚えたり、剣技をもっと磨くとかさ」
「…………」
「本来、修練を積んでいく中で『力の効率的な使い方』も覚えていくもんなんだが、お前さんは
今からでも修練を積んでいけばいい。
そこまで悲観する必要はないよ、と用心棒は言いました。
「コイツとの取引で力を手に入れるのは手っ取り早い。早さは力だ。だが、修練を積む事で得られるものも多く存在するから――」
「オレが今まで、努力してこなかったと思うのか?」
エリタミノールは今までの人生を思い出してきました。
故郷で
あれは確かに子供のお遊びではあったものの、2人共真剣に取り組んでいた。明るい未来を夢想し、2人で切磋琢磨していました。
あの日々は2人の原動力になっていました。
冒険者になった後、「実戦で強くなっていけばいい」という想いは直ぐに砕け散りました。彼は魔物の恐ろしさを知りつつも、それでも幼馴染みとの冒険の約束を思い出し、冒険者業界にしがみつきました。
荷物持ちや雑用係をこなしつつ、自主練にも励んできました。
仕事の疲労や先輩冒険者のからかいや嫌がらせにより、思ったように訓練できていたわけではありませんが……それでも彼なりにずっと努力してきました。
その努力は否定されてきた。
現実に否定されてきた。
しかし、質屋で得た力は現実でも通用した。
幼馴染みや用心棒に負けるまでは、通用していたはずでした。
「オレはいま直ぐ強くなりたいんだ」
「そう思いたくなる気持ちもわかるけど――」
「地道に訓練していたら、いつアイツに追いつけるんだよ!!」
そう叫んだ冒険者に対し、用心棒は哀れみの視線を向けました。
「勝つ以外の道もあるんじゃないのかい?」
「オレは負けたくないんだ。勝つためには、どんな手を使ってでも強くなるしかないんだ。……けど、ここで得た力も通用しないなら――」
エリタミノールは俯き、拳を握りながらそう呟きました。
しかし直ぐにハッとした様子で顔を上げました。
「ここで得た力も、質草に入れられるんだよな?」
冒険者の問いに対し、店主は嬉しそうに頷きました。
もちろんでございますよ、と肯定しました。
「じゃあ、いまオレが持っている力を売って……新しい力を買えばいいんだ!」
相乗効果のない力なら、相乗効果のある力を手に入れればいい。
いらなくなったものを質草に入れれば、何度だってやり直せる。
冒険者はそう言って嬉しそうにしていましたが、用心棒の目つきは変わらないままでした。店主だけが冒険者の言葉を――無責任に――肯定していました。
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