【オレ迷宮ソロライフ】 誰もついてこれない孤高のヒーロー!
「20……いや、寿命10年を質草にする」
一度寿命に手を出すと、エリタミノールはそれを肯定的に考え始めました。
冒険者稼業は命懸けの仕事。上手くやれば稼げる花のある仕事だが、花のように散ってしまう事も有り得る。花が散れば寿命など無意味になる。
それなら質草に入れて力を手に入れ生存の確率を高め、後々取り戻せばいいだろう。成り上がればいくらでも取り返せるんだ――と思う事にしました。
上を見て、失敗という奈落から目をそらしました。
しかし、寿命を手放した甲斐あって大きな力を手に入れました。
「エリタお前、いつの間に魔法を……!」
「オレには……そういう才能も眠ってたって事だよッ!」
エリタミノールは大きな火炎を作り出す魔法を振るい、立ちはだかる魔物達を焼き尽くしていきました。
使い古した盾を捨てて両手に剣を持ち、近づいてきた魔物は――質屋との取引で手に入れた――膂力で思い切り切り捨てる攻撃的な
長く冒険者業界の底辺にいたはずの男が魔法まで手に入れた。その事実は周囲の冒険者達をさらに驚愕させましたが、エリタミノールは焦燥感を拭いきれずにいました。
「レシアンはもっと先を行っている……」
自分より6年も遅れて冒険者になったのに、一気に追い抜いていった幼馴染み。
エリタミノールの目には彼女の背中が遙か遠くに見えていました。だからこそ彼は精力的に魔物を狩り、さらなる力を求めました。
狂ったように魔物を狩るエリタミノールの姿は、パーティーの仲間達に一種の恐怖を抱かせました。「もっと慎重に行こう」と言われても、エリタミノールは舌打ちを返すばかりでした。
それどころか――。
「お前らは足手まといだ」
「ま、待ってくれ。他のパーティーに引き抜かれたのか?」
「オレは1人で十分なんだよ」
エリタミノールは仲間から離れ、1人で迷宮に潜るようになりました。
かなり危険な行為ですが、彼は「今のオレなら問題無い」と驕るだけの力を持っていました。彼は呪文を唱えて魔物の群れを焼き払い、距離を詰められたら双剣で力任せに倒していきました。
1人で全ての戦利品を持ち帰るのは一苦労ですが――。
「これを全部引き取ってくれ」
エリタミノールは迷宮内でも質屋に頻繁に行きました。
そうする事で余計な荷物を減らし、戦闘に集中しました。
休憩したい時は質屋に居座り、水や食料は戦利品と交換で質屋から手に入れました。何日も潜り続ける事もあったため、人々は「エリタミノールは無茶をして死んだ」と思ってしまう事もありました。
しかし彼は何度も生還し、人々を驚かせました。
質屋を利用するエリタミノールの迷宮探索は――大きな危険と隣り合わせながらも――概ね順調に進んでいました。それでも彼は満足しませんでした。
「もっと高く買い取ってくれよ……!」
「御客様。質草の価値は御客様の心の持ちよう次第です」
質屋の店主はエリタミノールに対し、何度も説明しました。
どれだけ多くの戦利品を手に入れたところで、持ち込んだ本人がその価値を低く考えていれば大した値はつかない。黄金であろうと、ただの石ころのように扱えばその価値は著しく下がってしまう。そう説明しましたが――。
「お前はオレの戦利品を明らかに買い叩いている! 何なら別の店に行ってやろうか!? 世の中には買い取りをしてくれる店なんていくらでも――」
「それもよろしいでしょう。しかし、貴方1人だけで大荷物を抱えて地上に戻るのは大変そうですね?」
「ぐっ……」
「他店に持ち込む。それも良い考えだと思います。一度換金した後、そこで手に入れた貨幣を持ち込んでいただいた方が安定した価値になるかもしれません」
店主は「モノをどう扱うかは御客様次第ですよ」と言いました。
余計なお世話かもしれませんが――と前置きしつつ、「魔物の狩り方」についての助言を投げかけてきました。
「最近、御客様は当店で手に入れた『火炎の魔法』を多用していらっしゃいますね? 御客様の世界にいる大抵の魔物なら、その火炎で簡単に焼き払う事ができます。しかし少々、威力が強すぎるのかもしれません」
エリタミノールの手に入れた魔法は――戦利品を手に入れる観点から考えると――過剰な威力を持っていました。
そこらの魔物なら一撃で屠ることが出来るものの、火炎で屠れば皮も肉も焼け焦げる。焼け焦げてしまったものの価値は損なわれてしまう。
エリタミノール自身、その自覚があったからこそ黒焦げの戦利品の価値は低くなっていました。店主が特別に安く査定しているわけではないのです。
ただ、エリタミノールは激昂せずにはいられませんでした。
「これはお前が渡してきた魔法だろ!? それを今更、不良品扱いするのか!?」
「いえ、そういうつもりでは……」
どの魔法を手に入れるか選んだのはエリタミノールでしたが、店主は申し訳なさそうに対応してみせました。ただ、返品は受け付けませんでした。
質草として再び入れる事は可能と言いましたが、エリタミノールは炎のように苛立ち、その言葉をはねのけて店を出ていきました。
そしてまたがむしゃらに魔物狩りを続けました。
とにかく魔物を狩るしかない。稼ぐしかない。
このままだと失った寿命を取り戻す事どころか、アイツに追いつく事すら出来ない。とにかく戦うしかないんだ――と考え、がむしゃらに戦い続けました。
炎のように戦う日々の中、エリタミノールは久しぶりに街に戻りました。
人々はエリタミノールに対し、畏怖の視線を向けていました。
1人で何日も迷宮に潜ってきて――獣のように汚らしくなっているものの――生還しているエリタミノールを異様なものとして見ていました。
エリタミノールはその視線を気にせず、久しぶりに宿屋で寝ようとしていました。そんな彼に対し、彼女が話しかけてきました。
「エリタにいさん! ちょっと……!」
幼馴染みのレシアンはエリタミノールの手を引き、物陰に連れていきました。
彼女はエリタミノールの事を心配し、街でも迷宮でも彼の事を探していました。
久しぶりに会えた
それでも勇気を出して、「最近……どう?」と聞きました。
「一流冒険者様がオレ如きから情報収集したいのか?」
「そういうこと言うのやめて。……1人で迷宮に潜ってるってホント?」
レシアンはエリタミノールの身を案じました。
エリタミノールは鬱陶しそうに「実際に生きて帰ってきてるだろうが」と言いましたが、レシアンの不安は拭えませんでした。
「最近、魔物達の活動がとても活発になっているの。たくさんの冒険者が帰ってこなくなってるし、それに――」
「オレはザコ共とは違う。魔物なんかには負けない」
「にいさん、
迷宮に潜る冒険者達は、組合への参加が義務づけられていました。
さらに組合に
迷宮で得た戦利品の一部、あるいは換金で得た貨幣を支払わなければ迷宮に潜らせないという決まりがあるのです。決まりを破れば制裁されるのですが――。
「だから何だ? オレは何の決まりも破っていない」
エリタミノールはそう
組合に支払うべき上がりは成果があった場合のみ。
定額の迷宮入場料を支払う必要はない。迷宮に潜ったものの、大した成果を得て戻ってきていない以上は組合も相応の金額しか徴収できない。
だから大丈夫なのだと彼は言いました。
質屋で戦利品を処分するのは組合的には違法行為なのですが、彼はその尻尾を掴まれるとは思っていません。実際、冒険者組合も質屋の存在にはまったく気づけていませんでした。
とはいえ、冒険者組合はエリタミノールに対して「何日も迷宮に潜れるだけの実力者が、大した戦利品も持たず帰ってくるはずがない」という疑念を抱いていました。その疑念に突き動かされ、エリタミノールは要注意冒険者として睨まれるようになりました。
「オレは何も悪い事はしていない。迷宮内で盗賊組合とツルんでいるとか……そういう事は一切ない」
彼は「お前までオレを疑うのかよ」と言い、幼馴染みを睨みました。
睨まれたレシアンは――純粋にエリタミノールを心配しているだけとはいえ――たじろぎました。ただ、違法行為に手を染めていないとしても危険行為を繰り返している以上、彼を止めようとしました。
魔物達が活発に活動しているから、1人で迷宮に潜るのは危ない。
だからせめて――。
「迷宮に潜るなら私も連れていって。にいさんのパーティーに入れて」
彼女はそう懇願しましたが、エリタミノールはその言葉を拒みました。
うんざりした様子で「結局、お前もオレを疑っているんじゃないか」と言い、質屋に貰った膂力で幼馴染みを突き飛ばそうとしました。
レシアンは素早く動き、それを回避しました。
去って行こうとするエリタミノールをしつこく追い、彼を1人にさせまいと付き纏いましたが――。
「鬱陶しいんだよ!! オレの尻尾を掴んで組合に突き出して点数稼ぎでもするつもりか!? 一流冒険者サマはそこまでやるんだな!!」
「エリタにいさん……」
「これ以上、オレに付き纏う気なら相手してやる」
エリタミノールはたじろぐ幼馴染みに対し、剣の鞘を投げつけました。
剣先を突きつけ、「決闘だ」と宣言しました。
「オレが勝ったら、もう二度とオレに付き纏うな」
「…………。わかった」
レシアンも得物の斧を手に取り、構えました。
「その代わり、私が勝ったら一緒に冒険しよう。……昔みたいに」
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