質屋無双~Sランク冒険者の幼馴染みに言い寄られて困ってます~
「よし……。行くか!」
尋常ならざる質屋との取引で力を手に入れたエリタミノール。
彼は新たに手に入れた剣と、使い古した盾を手に迷宮に向かいました。
冒険者である彼は冒険者仲間らと共に迷宮に潜って魔物を狩る事を生業としていました。彼らは魔物の血肉、あるいは皮などによって生計を立てています。
不思議なことに魔物達からは時折、金や銀が出てきました。それらを大量に手に入れ、一攫千金を狙う冒険者の一員として彼は働いていました。
「前衛はオレに任せてくれ」
長らく荷物持ちや雑用係を務めていたエリタミノールは――質屋から得た並外れた膂力により――そこらの魔物なら蹴散らせるほどの力を得ました。
魔物の中には人を遙かに超えた力を持つものもいましたが、エリタミノールは魔物との力比べに悠々と勝利していきました。
魔物の突撃を盾で受け、払いのけて作った隙に剣を叩き込む。一歩も退かずに魔物を捌いていくエリタミノールの姿は仲間達から信頼を集めていきました。
長らく荷物持ちとして活動してきた彼の事を舐める者達もいましたが、ちょっとした力比べをすればコロリと態度を変えていきました。
質屋との取引によって得た力により、エリタミノールの立場は大きく変わりつつありました。しかし、彼はまだ満足していませんでした。
「皆は休憩しててくれ。オレはちょっとそこらの魔物を狩ってくる」
「エリタミノールの旦那が行くなら俺も……」
「肩で息してるじゃないか。大人しく休んでな」
彼は精力的に魔物狩りを続けました。
パーティー内で最もよく働き、戦利品も多く得ていきました。
その戦利品の多くを質屋に持ち込み、さらなる力を得ていきました。
それでも――。
「……こんなんじゃダメだ」
彼はずっと上を見据えていました。
業界の底辺から成り上がりつつあったものの、さらに上を目指していました。
彼の視線の先には、1人の冒険者の姿がありました。
その冒険者は年若い女性冒険者でした。パーティーの仲間と共に街に戻ってきた彼女は、街のどの冒険者よりも称賛を集めていました。
彼女の傍らには迷宮で討伐された
鉄人形以外にも手強い魔物を何匹も狩っている新進気鋭の女冒険者として、彼女の名を知らない者はこの街にはいないほどでした。
そんな彼女に対し、エリタミノールは苦々しい表情を向けていましたが――。
「エリタにいさん!!」
「…………」
彼女の方は正反対の表情を向けてきました。
女冒険者は自分を見ているエリタミノールに気づくと、パッと表情を明るくしながら駆け寄ってきました。エリタミノールが無言でその場を去ろうとしても回り込み、明るく話しかけてきました。
「聞いたよ! エリタにいさん、迷宮の第3層まで潜ったって! スゴいねっ!」
「第10層まで潜る腕利き冒険者は皮肉も上手いんだな。レシアン」
レシアンと呼ばれた年若い女冒険者は慌てた様子で「皮肉じゃないよっ!」と否定しました。純粋にエリタミノールの実力を褒めているのだと言い始めました。
彼女は本心から彼を褒めていましたが、エリタミノールは褒められれば褒められるほど惨めになっていきました。
彼らは同じ村から出てきた幼馴染みでした。
昔は「冒険者になる訓練」と称し、よく遊んだ仲でした。
年上のエリタミノールが先に冒険者になり、その後を追う形でレシアンは冒険者になりました。才能のある彼女は一気にエリタミノールを追い抜いていきました。
レシアンは斧の扱いに長けているだけではなく、魔法の才能も持っていました。それらを巧みに組み合わせる事で、彼女は直ぐに頭角を現していきました。
幼馴染みの活躍を目にするたび、エリタミノールは苦しくなっていきました。
荷物持ち兼雑用係として働いている自分と――自分が夢見たように――活躍している幼馴染みの姿を見続けるのが苦しくてたまらなくなりました。
エリタミノールは自分を追いかけて冒険者になったレシアンの「一緒のパーティーになろう」という誘いを何度も断ってきました。
レシアンは諦めず、今日も誘ってきましたが――。
「やめてくれ! お前もオレを笑いものする気なんだろ!?」
「ち、違うよ! 私はただ、昔みたいに一緒に冒険を――」
「オレは
しつこく誘ってくるレシアンを、エリタミノールは突き飛ばしてしまいました。
不意をつかれたレシアンはさすがに尻餅をつきました。エリタミノールはさすがにバツが悪そうな顔をしたものの、幼馴染みの制止も聞かずに逃げていきました。
ずっとレシアンから逃げている。
嫌な気分になりたくないから、ずっと逃げている。
その自覚はあったものの、彼は逃げずにはいられませんでした。
街の者は誰も知らない質屋まで逃げると、さすがにレシアンを撒く事が出来ました。苛立った様子のエリタミノールを質屋の店主は丁重に出迎え、「本日も何かご入り用ですか?」と聞いてきました。
「大抵のものは用意できますよ。御客様が望む力は何ですか?」
「…………」
アイツに追いつける力だ。
エリタミノールはそう思ったものの、口には出しませんでした。
ただ黙って迷宮の戦利品を店主に突き出し、「もっと力をくれ」と頼みました。
店主は恭しく戦利品を受け取り、査定結果を伝えましたが――。
「おい、どういう事だ。前より価値が落ちてないか!?」
査定結果に不服なエリタミノールは文句を言いました。
足下を見ているんじゃないか、とまで言われた店主は「そのような事はありません」と否定し、言葉を続けました。
「質草の価値は御客様自身が決めたものです」
「じゃあ、寿命100年分ぐらいで買い取ってくれよ! このゴミ共を!」
「価値を決めるのは御客様の言葉ではなく、心です。御客様の認知です」
店主は胸に手を当て、軽く頭を下げつつそう言いました。
客自身がこの品々をどう評価しているかで査定している。つまりエリタミノール自身が「大した価値がない」と思っている以上、相応の価値に落ちてしまう。
幼馴染みのレシアンに追いつけずにいる焦りが戦利品の価値を落としている。そう理解したエリタミノールは――納得したわけではありませんが――ひとまず店主に対し、声を荒らげるのをやめました。
「……何とかしてくれ。このままじゃオレはいつまで経っても強くなれない」
「貴方は強くなっていますよ。それは経験でご理解いただけたでしょう?」
「こんなんじゃ足りないんだ」
幼馴染みのレシアンは、ずっと先を走っている才能の塊。
迷宮の浅層で戦利品をかき集めている現状では足りない。最底辺から脱することは出来ても、幼馴染みに追いつけていない。
その焦りはエリタミノールの心を針のように刺してきました。
焦るエリタミノールに対し、店主は穏やかな声色で提案しました。
「さらなる力をお望みなのですね?」
「そうだよ! だから、何とか新しい力を――」
「では、寿命を質草に入れるのは如何ですか?」
店主はそう提案しました。
日用品を勧めるような気安さで提案してきました。
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