昼夢

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雪見は、迫り来る糸を必死に躱し続けていた。斬れればどうってこともないのだが、斬るにしても、この蜘蛛の糸は火を纏っていた。対する雪見の異能は氷。言わずもがな、相性最悪である。先のナンパ事件のように目撃者が居らず大々的に異能を使えるような状況でもないことも災いし、雪見は能力を制限された状態で戦い続けている。


「ぅ、ぐ」


少女が呻いた。幸い火傷もそこまで酷くなく、動こうと思えば動ける程度のものだったため、少女は少しずつ身を起こし始めている。


「わたしが援護する!アンタはその蜘蛛殺せ!啖呵切ってんなら殺せるんでしょ!?」


大声で叫び、パァンと蜘蛛に向かって銃弾を放った。

蜘蛛はたじろぎ、少女に向かって糸を放とうとする。が、糸はほつれ、彼女に届く前に床に落ちて消えた。


「ふふ。蜘蛛さん、それ、どこを貫いたと思う?糸作ってるよね、付け根のとこ。そこ撃ったらうまく作れなくなるの、当然よね」


少女は楽しげにネタばらしをする。

__アドレナリン出てるのか?

雪見は突如豹変した少女に軽くドン引きながら尋ねた。


「目が良いの?よく分かったね」 

「そうよ!わたし、視力6.0だもの!」

「それ、アナタが撃ったところだけ?」

「馬鹿なのアンタ!?あと三つよ!三つ!四肢にある!膨らむタイミングを狙うの!」


呆れつつも答えてくれた少女に感謝しつつ、雪見は蜘蛛の裏から氷の杭を出現させて残り三つめがけて打ち込んだ。

初撃は成功。綺麗に付け根を貫く。

二撃目も成功。多少のブレはあれど製造部分を突いた。

三撃目は、流石に蜘蛛に避けられた。そしてその勢いを利用し、ものの見事に少女に束ねられた糸がぶち当たった。


「ぅわ!?」


糸に当たった少女は壁まで吹っ飛び、そのまま倒れた。こちらに攻撃が来る前に、雪見は少女の方へと駆けた。

__良かった。気絶してるけど今すぐ死ぬことは無いわね。

雪見はほぅ、と息を吐く。


「アナタは良かったわね。この私の力を間近で見られるんだから」


蜘蛛に向けての二度目の啖呵。

お怒りなのか、蜘蛛は一つの糸をかなりの強度に束ね、一直線に向けてきた。


「蜘蛛さん、チェックメイトよ」


直後、糸も、蜘蛛も、凡てが凍り付いた。





********************






一面、凍り付いた空間とひとりの少女。

それに至るまでのことの顛末を見守る、女がいた。

女の名は八十女やそめという。

八十女は綺麗な女だった。射干玉の髪に深紅の瞳。真白の布地に金糸の刺繍を施した着物を纏い、退屈そうに光景を見ていた。


「つまんなーい」


八十女はそう呟くと、踵を返して出て行った。




******************




「はぁ、はぁ……。終わっ、た?」

「アナタ!そこのアナタ!」


大きい声で呼ばれ、雪見は振り向いた。

現れたのは瑞葵だった。


「ちょっと、アナタいきなり……!わたしが居るから良かったものを!居なかったら断罪ものですよ!?」

「はい、すみません……。っと、それより、その子、医務室かどっかに連れてってあげてください」


雪見は自分の後ろで気絶している少女を指さし言った。


「……?なにを言っているの?その子って、アナタ以外誰も居ないじゃない」



白昼夢か否か。敵か、味方か。

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