第14話◇成功?した精霊の召喚

 頭を抱えるようにして絶望しかけた私だったけれど……。


 蹂躙どころか、何の攻撃もされなかった。

 何故か。そのため、私はそろりとこの目を開けて、状況を確かめてみる。


 目の前、以前体感した、あの「鳥の化け物のようなストレリチア」は存在していなかった。


「イリス、これは……」

「たぶん……スズメのヒナ?だよね?」


 私たちはお互いの顔を見合わせる。

 私は当然のこと、私よりずっと魔法関連に詳しそうなイデアさえも、困惑を隠せない様子だった。


 そこには、確かに鳥の姿の何かがいた。

 ただ、私が見知っている恐ろしく荒々しいストレリチアとは全く違う、ただ一羽の、まるでスズメのヒナのようなかわいらしい小鳥だった。


 小鳥は取るに足らない、いかにもか弱そうに見える小ささだし、まだ幼いヒナのようにも見えた。

 その上、いまだ顕現しきっていないのか、少し姿が透けて見える。


 ポカンと見つめている私たちの前で、その鳥は――パクリ、とたった一口で、私の魔法から作られた全てのマナを飲み込んでしまった。


 具体的には、それまで空中の宝玉付近に留まっていたマナが、突然一か所に集まってきて小さな点のようになったかと思うと、コロリと地面に転がったのだ。

 スズメ?はすぐさま地上に降り立つとそれをついばんで、ごくりと飲み込んだ。


 そして。

 その小鳥は、完全に実体化した。


 チィー!!と満足げな鳴き声を上げると、小鳥は私の右肩にとまって、ほっぺたにその身を摺り寄せるようにしてくる。


「え、えっと。お……美味しかった、のかなぁ……?マナが」

「たぶんね。だから……完全になついちゃったみたいだ」


 チュンチュンとご機嫌にさえずりながら、右肩から頭、そして左肩へと、はしゃぐように跳ねて移動する小鳥。


 見た目は、ただの「餌をもらって喜ぶ小鳥のひな」でしかなかった。

 餌の中身が、だいぶおかしいのだけれど。


「これって、どういうことなのかしら……?」

「さぁ……?でも一応、精霊なのだろう?この小鳥は」

「たぶん、そうだと思うんだけど……」


 やはり顔を見合わせてしまう私とイデアだけど、全くもって何が起こっているのか、分からない。


 一体、どういうことなの……?


 お父様とお母様は、「ただのお守り」って言ってたのに。

 ストレリチアが入ってるなんてことも言っていなかったのに。


 前回は「恐ろしい姿のストレリチア」が入っていたし、でも、今回出てきた「謎のスズメらしきひな鳥」も入っていた。


 普通に考えたら、同じ鳥のはずよね?

 だけど、あの恐ろしい蹂躙をこの可愛い小鳥がするとは思えないんだけど……。


 それに、そもそもストレリチアは私が子供の頃、お父様が召喚していたはずなのだ。南ストレリチアの当主として。


 とはいっても、私自身はお父様のストレリチアをこの目で見たことはなかった。

 でも、それで「すごい実力だ」と一族の親戚たちに認められてお父様が当主になった過去が現実にあるわけだから、確かに召喚されてはいたんだと思う。


 それに、魔法書のこの記述も気になっている。


「なお、精霊は一度召喚すると召喚者が死亡するまでその契約が継続されるが、ストレリチアも同様である」――。


 お父様が森の奥で亡くなった時、きっと本の記述通り、ストレリチアはお父様との契約が切れてしまったのだ。


 けれど、だったらどうやって、森に行く前に私に手渡されていたはずの宝玉の中に移動できたんだろう?

 宝玉をプレゼントされたのは私の誕生日、両親が森に行った日の何カ月も前のことだった。

「契約切れの精霊は自然と精霊界に戻る」と本を読んで勝手に思っていたんだけど、実は違うのかな。


 大体、今回私が唱えたのは「精霊界にいる精霊を呼び出すための呪文」だったはずなのに、宝玉から精霊が出てきたというのも、不思議な話だと思う。

 そこは「精霊を宝玉の中から出すための呪文」じゃなくてもいいのかな?

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