第15話◇ちょっとっ、顔が近いわ……っ
「よく分からないけど。でも一応、精霊は召喚できた、ってことでいいんだよね?やったね、イリス!!」
うーん、と私はついつい考え込んでいたのだけれど、イデアにそう笑いかけられて。ようやく、その事実を認識することができた。
「そう、よね。成功したんだわ、私……」
宝玉から出てきたストレリチアにまた殺される、もうだめかも、と思ったけれど、過去とは全く違う状況になった。
今回は誰も命を落としていないし、蹂躙されてもいない。
だから、きっと私たち、助かった……のよね?
ストレリチアの謎や小鳥の精霊の中身は置いておいて、精霊召喚自体は成功したということになるはずだ。
実はこの可愛らしい小鳥の姿がひっかけで、例えば別の機会に何かトラブルが発生した結果、化け物の姿になって襲ってくる可能性も、いまだゼロではないけれど……。
少なくとも、叔父様や叔母様やアネモネ、それ以外の一族の人たちの前でも「この子が私の精霊です!!」と声を大にして宣言することができる。
精霊がいて精霊魔法も使えるから、これで一族の人たちにも認めてもらえる。
魔法が使えるから、学園に通う資格も得られる。
……と、そうだわ、あの精霊契約者のみ参加できるパーティにも行ける可能性があるのね。
この、完全に落ちこぼれ扱いだった私が。
「……ありがとう。イデアがしっかり教えてくれたから、魔法も使えるようになったし、精霊とも契約できたんだわ」
私は改めてイデアにお礼を言う。
「そうかな?だったらよかった」
イデアはそれにニコニコ顔で返してきて。
その笑顔を見ると、ドキリと胸の鼓動が大きくなる。
まるで自分のことのように嬉しそうな表情で、彼が私の成功を喜んでくれているから。
そんなふうに寄り添ってくれる人なんて、私にはアルム以外にはいない。
そのアルムだって、単に本人の性格が人一倍優しくて、加えて親戚で幼なじみだから、「誰もいない寂しい幼なじみ」がほっとけなくて付き合ってくれているだけで。
イデアとは全く縁故もなかった。
たまたま聞こえてきた歌を不思議に思って確認しに来ただけの、いわば通りすがりの人なのに。
それでも、ここまで付き合って面倒を見てくれた。
彼は……優しい人、だわ。
きっと。
そう信じたい。
前回の暗殺の経験上、どうしても「優しくしてくれても嘘かもしれない」と疑ってしまうけれどね。
今後もし裏切られるとしても、こうして魔法を使えるようになって精霊との契約まできたのは、確実にイデアのおかげなのだから、その部分の感謝だけはちゃんとしたいわ。
「ねぇ、私、お礼がしたいわ!!何でもする!!」
私はイデアに提案する。
すると、彼は驚いたようにパチパチと大きくまばたきを繰り返していたけれど、真剣な眼差しになって私の顔を見返してきた。
「……何でも?本当に?」
少し小さめ、そして今までの会話よりも低めの声が、私の耳元にかかる。それは完全に内緒話のやり方だった。
ちょ、ちょっとっ、顔が近いわ……っ。
お父様以外の男の人にこんな、相手の息がかかりそうなくらいの至近距離まで近づかれたのは初めてのことで、私はさすがにドキドキしてしまっている。
「え、ええ。さすがにお金あたりは、ちょっと用意できないけれど……私にできることなら、どんなことでも……!!」
何とかその動揺を悟られないようにしないと、と取り繕いながらも私は頷く。
だって、お礼をしたいというこの気持ちは嘘じゃないもの。
イデアはしばらく真顔のまま黙って、何か深く考え込んでいるふうに左斜め上の方を見るとはなしに見ていた。
「だったら、俺の捜査に協力してくれるかな?」
やがて、こちらが全く思いもよらなかった言葉が、彼のその口から飛び出してきた。
「捜査?」
「俺はさる探偵団のメンバーなんだ」
探偵。これも思いもよらない単語だった。
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