最後の作戦




第一遊撃部隊はを通過し、太平洋へと出ていた。


1日前、伊藤は高橋から指示を受けた。


それはある海域に向かえとの指示。


もちろん連合艦隊司令部からという体でだ。


詳細は追って知らせるという。


「寒いですね」


艦長の有賀はそう呟いた。


夏とはいえ、東北の方は雪景色のはずだ。

大和の艦橋には蒸気管を引っ張ってきた暖房が備わっていたが、それでも少し寒かった。


「まあ、他の艦に比べたらマシだろう...」


駆逐艦なんかは波を受けるたびに冷水を被っている。それに比べたら大和の艦橋はだいぶ温かい方だ。


間もなく高橋が指示した海域だ。


「前方に小艇、数3」


そこにいたのは漁船だった。探照灯でモールス信号を放っていた。


「ついてこいと言ってるな」


そして電信でも誘導を示唆する文が送られてきた。


漁船が誘導した先にあったのは大湊軍港であった。


ところどころに空襲の爪痕が見え、あちこちに擱座した海防艦や輸送船がある。


大和に接近してきたのは小さな油槽船であった。


「伊藤中将でありますね、私は...青木です。高橋中将から話は聞いていますので」


油槽船から大和に接舷した内火艇に乗っていたのは青木を名乗る者だった。


「聞いても答えてはくれないでしょうが、貴方がたは一体何者なのですか?」


青木は少し考えると、話し始めた。


「そうですね...ただの道を踏み外した軍人ですよ。自分勝手な馬鹿たちが集まってできた変人揃いの組織というか、つながりですね」


応接室に移動した後、青木は話を続けた。


「紀伊。ああ、111号艦を見ましたか?」


「ええ、対馬で4ヶ月間も」


「あれはですねえ、もともとプラモ好きのある軍人が親の権力と金にものを言わせて建造中止になった111号艦を買収して作ったものなんですよ。なんでも、本物の戦艦が家にほしかったんだとか」


は?。伊藤は本気でそう思った。


「他にも変態科学者をうまく制御して、軍内の兵器開発に貢献したりとか。あと、なんか海外とも繋がりがある人が組織にいるようで、米軍の情報を定期的に送ってくるやつとかいますね」


「私ですか?、まあ自分は軍内で石油の横領とか、軍艦一隻分のお金で遊ぶとか色々してましたよ。そしたら高橋中将がなんかいきなりやって来て、告発されたくなかったらうちの組織に入れとかい言うんですよ」


「高橋中将は人を制すのがうまいんですよね、そう、闘牛士みたいに。逆らおうとはしたんですけどね、金と権力を使って。俺らバカどもはまんまと高橋中将の配下になったわけです」


伊藤は心底あきれたが、逆にそれを嘘だとは思わなかった。


「というわけなので、是非。今まで貯めていた燃料、使ってください」


そう、軍内で横領がバレなかった燃料は、米軍の空襲でもバレることは無かったらしい。


いろんな家や山の中や、海底に沈めていたドラム缶を高橋の指示でかき集めたのだとか。


「あと、これ、次の指定海域です」


8月10日、午後2時、第一遊撃部隊は補給を済ませ太平洋上で南下を開始した。



※ ※ ※



そして同時刻、呉から離れつつある黒鉄の城の姿があった。


彼女の名は「長門」。


「榛名」「」「伊勢」「日向」の4隻の戦艦に14隻の駆逐艦、海防艦、巡洋艦「大淀」「青葉」を従え、艦隊は明石海峡を抜けた。


同じ頃、セレター軍港からも「高雄」を始めとする残存艦が出撃した。


帝国海軍最後の作戦が始まろうとしていた。

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