坊ノ岬沖
1945年8月9日、坊ノ岬沖。
1隻の巨艦と数隻の駆逐艦が沖縄を目指して進撃をしていた。
そして、その艦隊を上空から捉える一機のSBDドーントレス偵察爆撃機がいた。
「ジミー、あれは...」
「間違いないな、ヤマトだ。今更になってオキナワに向かうつもりなのか」
4月にヤマトの艦隊を見失ってから4ヶ月間、第58任務部隊は血眼になってヤマトを探した。
索敵のために空母を分散させたので予定されていたクレへの空襲などはできなかった。
もしかしたら友軍の潜水艦と相打ちになったのではないかという説が第38任務部隊(もともとは第58任務部隊だったが沖縄戦後に改称した)内ではもっとも有望だった。
だがその説は今、覆させられた。ヤマトは現にそこにある。
「急いで本隊に電信だ」
※ ※ ※
マーク・ミッチャー中将の第38任務部隊は37隻の空母から構成されていたが、およそ半数は護衛空母であってあくまでも後方支援用であり、残りの高速空母の3分の1はカミカゼや台風の被害に遭って修理のためにウルシー岩礁に下がっていた。
つまり稼働している空母は13隻ほどであり、更に坊ノ岬沖のヤマトに攻撃隊を送れる距離にいるのはその半数だった。
7月になって第38任務部隊の所属する第5艦隊は司令官がスプルーアンスからハルゼーへと交代したのに伴って、第38任務部隊の司令官もマーク・ミッチャーからマイケンへと交代していた。
ハルゼーは戦艦ミズーリに将旗を掲げ、日本本土攻撃の指揮を自ら執っていた。
ヤマト発見の報が届いたとき、ミズーリは東北沖にいた。
ちょうど艦砲射撃の最中であった。
「わざわざ俺等が向かう必要は無いな。マイケンの第38任務部隊に迎撃させろ。付近の空母をかき集めさせてな」
「は」
当然の命令だった。そして、歴史の方向性を決める決定だった。
この命令を受けて日本近海に展開していた第38任務部隊の空母はヤマトを追うべく沖縄方面へと移動を開始した。
それはサイパン沖の空母についても同じだった。
※ ※ ※
まず最初に80機から成るSB2C ヘルダイバー急降下爆撃機がヤマトへの攻撃を開始した。
2000ポンド爆弾、1000ポンド爆弾が降り注ぐ。
250㎏爆弾とは比べ物にならない凄まじい破壊力である。
副砲やら高角砲が誘爆あるいは吹き飛び、上部構造物が切り刻まれる。
続いてTBFアヴェンジャー雷撃機がMk13魚雷を投下していく。
初期型は信管の不作動に悩まされ、効果的に使われることがなかったMk13魚雷であったが、現在では完璧にその役割をこなしていた。
水柱が1本、2本と巨艦の舷側に立ち、最終的に13本の水柱が巨艦の左右に立った。
間をおかず攻撃隊の第二派が到着する。
すでに瀕死のヤマトに向かって前回の攻撃隊同様に、爆弾やら魚雷を投下していく。
また、死にかけの戦艦を狙うよりも、護衛の駆逐艦に狙いを定めて攻撃をする機体もあった。
やがて、ヤマトは方舷に魚雷を多数喰らったのか、急速に傾きながら、最後には赤い船底を丸出しにして、ゆっくりと沈んでいった。
それを見ていた攻撃隊のパイロットたちにとって、その光景はは一年前のレイテ沖海戦の武蔵の最期を彷彿とさせるものだった。
しかし、いや、気づいていたのではあろうが、そのヤマトの対空砲火が明らかに過小であり、護衛の駆逐艦はヤマトが沈むと、乗組員の救助さえせず引き返していったことが、ハルゼーへ報告されることはなかった。
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