第二話 ダンジョンでのお仕事
今朝は予定通りダンジョンへ来ている。
大きな川の近くにあるダンジョン。
周りの人が見てくるが気にしない。いつものことだ。
ダンボールを被った男なんて、そう珍しくもないだろうに。
もしかすると、この視界確保用の穴の形がいけないのだろうか。
久しぶりの仕事で、少々張り切りすぎてしまった。
かっこよすぎたかもしれない。
誰だってロボットには憧れる物。
俺だってたまにはオシャレを楽しみたいので許して欲しい。
入り口付近にいる人の間を抜け、下り坂を進みダンジョンへと侵入する。
ふむ。ここは迷宮タイプか。
人が多く日本語でない言語も聞こえてきたが、ここで最近何か見つかったのだろうか。先月までの情報では、それほど人気は無かったはず。
しかし撮影の依頼が来たということは、そういうことなのかもしれない。
依頼主は、ミーハーだったか。
ダンジョン内部は、所々に照明が設置されていてそこそこ明るい。これは、主に政府や自治体が設置している物。国に報告されていないプライベートダンジョンもあるという噂。その場合は、個人が設置することになるのだろう。
ほとんどの場合は、国に見つかってしまってプライベートではなくなっているようだが……。
某国の様に「密告報奨金」を出せるように政治家は話し合っていると聞いた。それほどまでにダンジョンとは国で管理しておきたい物らしい。
順調に依頼主より渡されたカメラで撮影を進めて行く。
時々隅っこに綺麗な丸い石が落ちているので拾う。
もしかすると小銭になるかもしれない。
売れなければ、こまちゃんにあげても良い。好感度が上がって拾ってくれるかもしれない。
いや、まて。ならば母親に渡すべきだろうか。これはもしかすると究極の選択というやつ。悩ましい。
少し奥に進むと、こちらを指さし何か言ってくる外国人が増えてきた。
時々石を投げて来る奴もいる。
思わず投げ返したくもなるが、拾った綺麗な石はお土産なので使用することはできない。
はっ⁉ もしやそれが狙いか!
すまないな。これは、飼い主に渡すための敷金礼金となる予定だ。君たちにあげるわけにはいかない。がんばって自分達で拾ってほしい。
今度は行き止まりか。
こういった場所には、隠し通路があるのが定番。家にいた頃はゲームも嗜んでいた。常識常識。
床や壁に手を当てて確認する。
おや。ここのブロック動きそうだ。
もちろん即決で押す。ゲーマーなら当然。常識常識。
何かが起動する音がして、後方で悲鳴が聞こえてきた。
事件でもあったのだろうか。助けに向かうべきかもしれないが、ここはダンジョン。何があるかわからず、二次被害に遭う危険もある。まずは、自分の安全を確保だ。
とりあえず、この場所で変化はない。
なるほど。何も起こらない系のスイッチか。中に何もない壺のようなものだな。
来た道を戻り、先ほどの丁字路を目指す。
途中足元から声が聞こえた気がしたが、ここのダンジョンは床が薄いのか? 下の階と思われる声が聞こえるなんて、すごい技術か手抜き工事だろう。声の内容までは理解出来なかったので、酷い賃貸物件よりは良いかもしれない。
しかし、今後は少し気を付けて進む必要がありそうだ。
もしかすると、ダンジョンを作った組織も金欠なのかもしれないな。少し親近感がわいてきた。だが支援はむりだ。十円以上の単位ではむりだ。
俺の食費は、文房具屋で飼われている猫の
丁字路に着くと人がいる。若い男性だ。
こちらを見て驚いている。すまないな、ダンジョン内ではもしものため頭部にライトをつけている。外にいた時よりも、かっこいいからビックリさせてしまったようだ。
それにしてもダンジョン内で一人。この男性は、何をしているのか。
もしかして、このようなところで恋人でも待っているのだろうか。
まさかここは、有名な待ち合わせの場所だったり……。
出会いのスポットということも……。
立ち止まり壁を見つめるが、特段オシャレなところはない。パワースポットの可能性もあるかと思っていると、男性から声をかけられた。
「あの。ちょっと聞きたいことあるんですが、今大丈夫ですか?」
「見てわかるように仕事中ではありますが、少しなら大丈夫ですよ」
「あ、え? あ、えーっとそっちに外国人が数名向かったと思うのですが……」
「ん? 知りませんが。で、それが何か?」
「誰にも会いませんでした?」
「はい。こっちの道を進んで、ここであなたに会うまではだれとも」
「あれ……おかしいな」
「以上ですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「では、失礼します。仕事中なのでね」
男性に別れを告げ、先程とは違う道を進む。
おそらく、男性は今進んでいる道から丁字路にやって来ていたはず。
もしかすると仲間とはぐれた迷子だったのだろうか。
そうだとすると助けてあげるべきなのだろうが、それは出来ない。すまないな俺は今仕事中だ。そして、俺も迷子だ。
むっ。ついにモンスターに出会ってしまった。
ダンジョン一階は、どこも比較的安全なはずなのに運が悪いことだ。
スライムと呼ばれるゼリー状のモンスター。色は緑。少しおいしそうに見える。色からすると、メロン味だろうか。いや、まさかのキュウリ味もありえる。捕食されないようにわざと不味くなるという植物が存在するくらいだ。モンスターだってその可能性はある。とすると、失敗した。浅漬けの素を持ってくればよかった。
スライムは、移動速度が非常に遅い。
距離を取って様子をみているが、どうやら奴の目的は俺ではないようだ。
俺が来た道を進んでいく。
見ているとあまりの遅さに応援したくなってくる。
だがすまない。生きたままの君を触ってしまうと、手が溶けてしまう。運んでやるわけにはいかないのだ。ついでに言うと、目的地もわからない。
がんばれがんばれと呟きながら、スライムを見送った。
一応撮影もしてある。きっと依頼主に俺の優しさが伝わって、報酬がアップすることだろう。これはあざとさではない。テクニックだ。
よし! 地下二階への道を発見した。
今日の依頼内容は、ダンジョン一階の撮影と調査。
あとは、ダンジョンから脱出して撮影機材を渡し、報酬を受け取るだけだな。
さて、来た道を戻るとしよう。迷子だがね。
だが俺も馬鹿ではない。道中最低限の目印は残しながら来た。これを辿れば入り口に着くはず。
ない……。
目印のご飯粒がない……。
なぜだ。なぜこんなことに。
ん? もしかして先程のスライム、俺の目印であるご飯粒を狙っていたのか⁉
許せない。絶対に許せない。
次に見かけたら必ず倒してやる! 必ずだ!
ついにここまで来た。先程の丁字路。
男性は、いなくなっているようだ。彼は仲間と再会出来ただろうか。少しだけ心配だ。
それにしても、スライムの奴を見かけない。
俺の応援が効きすぎて速度が上がったのだろうか。
くっ! あの時の俺はどうかしていた。
スライムのあざとさにやられていた。何というテクニックだ。
やったぞ。出口だ。いや、入り口か? まあいい。
途中出会った外国人に道を聞いたが、言葉がわからなかったのでノーカンだ。
要するに一人で帰ってくることが出来た。大人として完璧に仕事をやり遂げた。
ふー。地上の光は格別だ。
入った時よりも人が増えている気がするな。これからがピークタイムなのか。
パトカーが近づいて来ているようだが、関係ないだろう。
さっさと帰るとしよう。
おかしい。
依頼主に撮影時の声が邪魔だとか言われて、報酬を減額されてしまった。
スライムの場面をアピールしたのが失敗だったか。
最後まで俺を苦しめるとは、やるなスライム!
今回は完敗だ。
はぁ。少々疲れたし、今日はもう大人しく空き地に帰ろう。
そうだ、途中銭湯に寄らなくては。拾われる努力は必要だ。必要経費だ。
しかしあのダンジョン、途中から靴の裏がペチャペチャする。
地味な罠にかかったようだ。
次回は、気を付けねばな。
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