第10話 不発弾(宿題の落書き)
提出した宿題は、いつか返ってくる。
これは、どうにもならない真理だ。
たとえ森の奥で木が音もなく倒れたとしても、いつか誰かが森の奥へと足を踏み入れれば、木が倒れたことを知るのだ。ヘイ、ジョージ・バークリー! 難しく考えなくっても簡単なことだろう?
などと現実逃避している場合ではない。
しでかした事実はかわらない。
そこに楽しく描いた猫拓は存在し、先生に「これは何か」と、クラス全員の前で聞かれているのである。
宿題の範囲の解答がことごとく中途半端に終わっている上に、一番しっかりと生き生きと描かれたライン。
先生もさぞかし気になったことだろう。
正に、森の奥(先生の机)で倒れた木(見つかった落書き)は、時が熟して明るみに出たのだ。
最上先生に、糾弾されているのだ。
いや、そこまで怒らなくってもっていうくらいに怒っている。
先生、猫嫌いなのだろうか?
「猫拓です」
誤魔化しようもない真実。
私は、正直にかしこみ申し上げる。
「猫……拓?」
先生が戸惑っている。
きっと、あまりに聴きなれない言葉に、どう返せば良いのか分からなくなったのだろう。
安心してほしい、先生。
それ、私が作った造語だから。
この世に存在しなかった言葉だから、エニグマでも解析不能なはずだから。
「猫の形を、ノートに描きました」
「ね、猫?」
思わぬ返答だったのだろうか? 先生が、素っ頓狂な裏声になる。
先生の声が面白かったのか、猫の形を描いたことが面白かったのか、教室は、どっと笑いに包まれる。
「なんだ……猫か」
「今、先生なんだかホッとしました?」
「い、いや? 別に!」
おや? どうも先生が焦っている。
これは、何かあるな?
「先生、これ、何の絵だと思いました?」
「い、いや……別に」
ほほう……。
私には可愛い愛猫の形にしか見えないこの落書き。先生には、何に見えたのだろう。
何かとんでもない物に見えたのではないだろうか?
「先生? これ、何に見えたのか、教えていただけますか?」
「あ、いや……ね、ねこに決まっているじゃないか! 猫に!」
真っ赤な顔して先生が怒っている。
本当、何に見えたというのだろう。
ともかく取り返した宿題ノート。
私はしげしげと見つめるが、やはり私の目には、可愛い愛猫、ハリボテちゃんを型取った物にしか見えなかった。
ええっと丸いお腹……足がひょっこりと飛び出て……。なんだろう。
まぁ、いいか。
後で部室の皆に聞いてみよう。
思わぬ返答が得られるかもしれない。
かくして謎は、不発弾として残されたままとなった。
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