第7話 ハリボテとオヤツと

 部活を終えて、家に帰れば、そこには可愛い愛猫がいる。

 その幸せがあるからこそ、私は、生きていけるのだ。


「ただいま! ハリボテちゃん!」


 さあ! この腕に飛び込んできなさい! そう、両手を広げても、飛び込んでくる猫はいない。

 かわりに、またコイツ、暴走してやがる……と、冷めた目でみる猫ならいる。

 まあ、私レベルの猫好きとしては、そこがまた可愛いのだが。


 玄関横のお掃除シートに、お掃除用のシートを装着して、私は、廊下を掃除しながら歩く。長毛のハリボテの毛が、お掃除シートを見る見るうちに毛だらけに変えていく。

 この毛をちゃんと掃除しておかないと、猫のいる家というものは、たちまち猫毛だらけになってしまうのだ。

 お母さんがパートで家にいない時ならば、せめて、このくらいはしなければならない。我が家は、掃除をしてくれる人を雇えるほどの金持ちではないのだから、致し方ない。


 そうだな……。

 もし、宝くじを買って、それで一億とか当たったら、そういう家政婦さんとかも雇えるのだろうか? いや、一億もあったら、執事とかも雇える?

 さすがに、それは無理かな。

 じゃあ、あの執事がいる設定の人たちって、どれだけ資産を持っているの?

 一億で足りないならば、一体、億万長者って、いくら持っている人なんだろう。

 

 そんなことを徒然に考えながら、お掃除シートでごしごしと床を掃除しながらリビングへと向かう。

 

 ハリボテは、いつものお気に入りの定位置、ソファーの背もたれに上にのってくつろいでいる。

 可愛い。猫って、なんで何もしないで座っているだけで可愛いのだろう。

 スマホで写真を撮れば、昨日と微妙にポーズの違うだけの写真が、本日も量産される。


「そうだ。コンビニでオヤツを買ったんだっだ」


 ガサガサとビニール袋の中から、取り出したのは、ポテチ、チョコ、パック入りのレモンティーの王道ど定番のオヤツ。


 この、ポテチとチョコを交互に食べる無限システムが、良いのよね。それに、パックでそのままストローを刺して飲むレモンティ。

 これは、もう優勝でしょう。

 部活の後輩のまどかは、新作の微妙な味の商品を買うのが好きだったりするし、澄華は、激辛系に目がなかったりする。

 好みは人それぞれだが、私は、ドが付くくらいのど定番なジャンクフードが好きだ。気軽に食べられて、美味しいって、分かっている安心感は、味にも反映される。


 テーブルに広げた食料をもぐもぐと食べながら、ハリボテを眺めれば、大きなあくびをしている。

 どうして、こう……カメラを向けていない時の方が、色々と可愛いことをしてくれるのか。惜しい!


 有難いことにハリボテは、人間の食べ物に興味を示さない。

 おかげで、こんなにのんびりとチョコなんかを食べられるのだ。まあ、万一のことを考えて、絶対にこぼしはしないし、食べたあとは、お掃除シートで掃除するのだが。

 だって、自分の愚行でハリボテが病気になったら、それこそ、私、絶望する。

 それこそ、ハリボテが元気でいられるのならば、一億の当たった宝くじを差し出す覚悟は持っている。(まあ、絶対に当たらないけれど) 


「うん。ハリボテちゃん。キミの健康は、一億円よりも価値があるよ」

  

 突然の私の表明に、ハリボテは、一瞬だけ目を向けて、プイッと後ろを向いて寝てしまった。

 

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