第6話 大滝聡の絵

 人の絵に散々な文句(深く考えればそれほど言っていない)を言う大滝聡だ。

 どんな絵を描いているのかと、隅で黙々と描く大滝の後ろに回ってみる。


「細か! え、まじでこんな細かい絵描いているの」

「あ、こら、勝手に見るなよ」

「え、本当ですか?」


 まどかも一緒になって、大滝の絵を見る。

 細かい。スラーもびっくりの点描仕草で、書かれているのは、昆虫。


「これってさ、解剖学とかの点描画じゃないの?」

「なんだ。意外と知識はあるんだな」

「あるんだなじゃないでしょ。あれは、こんな大きなキャンパスで、油絵で描くものではないでしょ?」

「馬鹿だな。そうやって、誰もやらないところに意義があるんだよ」


 美術というものは、確かに、誰もやらないことをするということに、一定の価値を見出す。

 だから、便器を展覧会に出す奇人も、自分の絵をオークションで競り落とされた瞬間にシュレッダーにかける変人も、大御所として名を君臨させている。

 しかし、誰もやっていないというのは、何かしら不都合があるからであって、そんなに胸を張って言われても、こまるのだ。


「ともかく、大滝先輩が、変態であることは確定しましたね」

「まどか正解」

「お前らな。人の絵にケチ付けんなや。ゲテモノ触手フェチと猫型ロボットのくせに」

「やだ、そんな褒めなくっても!」

「まどか、それ、ぜんぜん褒めていないから。むしろ貶しているから。てか、まどかのゲテモノ触手フェチは、いたしかないとして、私の猫型ロボットはダメでしょ?」

「全ての物を猫に変換するならば、まじそうだろうが」

「いや、その言い方だと、青いボディの国民的ロボットでしょうが。なに、その、オリジナリティのない攻め方は。それって、芸術を志す者として、最悪のパターンじゃない?」


 コンプライアンス的にだめなんだ。口に出してはいけないお方なのだ。

 そこに手を出す大滝が悪い。

 オリジナリティのない芸術家なんて、ただの描けない豚なのだ。

 いや、それもオリジナリティ危うい言葉だけれども。


「じゃあ……猫……又? ……猫……娘?」

「たぶん、猫に娘をつけるほうは、だめ。猫又は妖怪だけれども、それも、キャラ多数!」

「なんだ、猫キャラって多くない? 不自由だな」

「うっさい、大滝! 猫は、人類皆に愛される完璧なる存在! キャラも多くなって当然なの」

「あ……ねえ、先輩方、なんの言い争いしています?」


 まどかが、売り言葉と買い言葉でどんどん脱線する大滝と私を制する。

 悔しいが、正論だ。我々の口喧嘩は、まどかの言う通り、どんどん脱線し続けている。


「ま、いいじゃないですか。二人とも変態ってことで」


 いや、ゲテモノ触手フェチには言われたくないんだけど。

 

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