玉ころが相棒になりました 2

「松葉色か」


 ナオの独り言。観察している最中、玉ころも自分を見返している、気がした。目玉はなくても。本も覗く。


 明るい黄色の光も治まる。松葉色の玉ころと異なり、動かない。種というより、砂場でくっついてきた粒。形もわずかに、歪む。黄色のページをめくっていく。ブロンドと一致した。


「つぶされた物は、持ってこなかったんだね。エライ! エライ!」


 ナオは褒めてやる。クナウは理由を説明したが。要領を得なかった。


「ナオ~! ご飯にしよ~!」


「は~い!」


 母に呼ばれて、ナオは返事。クナウを肩に載せて、リビングへ。


 カレーライスを皿に盛り付ける様子に、クナウは興味津々。食い入るように見ていたのは、ナオが食べるところだった。一緒に、食べてしまいそうになるほどに。


{これだよ! これ!}


 カレーライスを食べ終えた、皿の縁。クナウは、二回ほど跳ねた。


 ナオは右手で、自分の額を押さえる。理解した。願いの種は、実在する。


 使った後、売り払った奴がいる。悪ノリして、広めるのを協力した奴らも。悪質な連中は、買った人たちを笑っていただろう。


 最初から、少女の願いが叶うことはなかった。ネットと同世代の話を信じた。


「ナオ、頭痛いの? オレンジ、食べられる?」


「ううん。スパイスで、体温が上がっただけ。オレンジ、食べるよ」


 母に訊かれて、ナオはかぶりを振った。頭が痛いのは、心の面で、だ。


「この願いの種は、本物なのね?」


{うん!}


 片付けを手伝った後。ナオは自室に戻る。白のハンカチの上にある、明るい黄色の物を指で差して訊く。玉ころの元気の良い返事。


 少女の姿が脳裏に浮かぶ。ナオはかぶりを振って、追い払う。あんな奴に渡すなんて、もったいないし。二度と、会いたくない。


「ささやかな願い事ねえ」


{歌姫‼}


 ナオがつぶやく。妙な物を使ってまで、叶えたい願いなんてない。白いハンカチの上を跳ね回りながら、クナウが言う。


「歌姫~~~!!!」


{?}


 ナオは嫌そうな声を上げる。ピタリと、クナウが止まった。不思議そうに、見返す。


 あまり、音楽を聴かない。ドラマやアニメ、映画で流れる曲。町中で、流れる曲を聞くくらいだ。CDを買う、ダウンロードするということもない。


 暇さえあれば、本を読んできた。


「考えてみれば、世界的な歌姫って、ささやかじゃないよね」


{……}


「音符が読めないからなあ」


{歌姫……}


 ナオの独り言。松葉色の玉ころは、歌姫推しだ。


「なぜ、歌姫? 彼女と約束を交わしたから?」


{?}


 疑問を持った、ナオは訊く。クナウは、否定。説明してくれたが、判らなかった。


「音符が読めない人が歌姫になったら、種が本物だったと証明できるかな?」


{うん!}


 ナオは譲歩する。せっかくの──相棒と、ケンカしたくない。クナウは喜ぶ。


「ズルをしても良いの……かな?」


{?}


 気づいて、ナオは訊く。クナウは、不思議そうだった。


「歌姫になりたい」


 右の手のひらの上に、ブロンド色の玉を載せる。ナオは言う。チクッとした。ブロンド色の玉から根が生えて、くっついてしまう。


「しまった! 利き手に付けちゃった!」


 ナオが嘆いたが。引っ張っても、外れなかった。


「まあ、良いか」


 仕方ないと、ナオは思う。新品のノートを取り出す。一ページ目に、歌姫になると書く。




 後日。種に関して、ナオは正確な情報を知る。創った存在とケンカしたのは、別の話。


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カクヨムコン10 短編 参加 ひょんなことから、意思ある玉ころを拾ったので、相棒にして、世界的歌姫を目指します‼ 奈音こと楠本ナオ(くすもと なお) @hitoeyamabuki

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