橋の上で、千客万来! (人外編) 2
緑色の光が泣き出す。かなり、大きい。ナオは慌てて、ぐるりと辺りを見回した。
「へ? どこ? ここ?」
水平に広がるのは、白い雲。頭の上にかけて、青い空。時代劇で見掛けた、現代でも残っている所もある。木の地色を生かした、円弧状の橋の上。
ポツン。
ここにいるのは、ナオと緑色の光だけ。怖いくらいの、静けさに包まれていた。
{グスッ……グスッ……クスン……クスン}
ようやく、泣きやむ。さっきまでいた、ピッコロに置いていかれたらしい。ナオは気の毒になって、提案する。
「ピッコロさん……あっ! さっきまでいた、木が思い出して戻ってくるまで。私と一緒に居よう?」
{うん!}
元気な返事。ナオは手を伸ばす。緑色の光の大きさに合わせて、小指を伸ばす。硬い感触があった。
ぶわっ。ナオの小指の先から、全身を緑色の光が包む。温かいが、まぶしい。まぶたを閉じた。
まぶたの裏に感じた、光が消える。そろそろ、良いかな。ナオはまぶたを開く。
目の前に迫ってくる物に、ナオは言葉を失う。
物語に出てくる、死神。
黒に近い紫色のマントを羽織る。深くかぶったフードの下から覗くのは、頭の白い骨の鼻から顎下。むき出しの白い歯からこぼれる空気。
{仲間が増える喜びは、子々孫々を失う哀しみと裏表。魂核と共鳴した者は、輪から外さねばならぬ}
死神が歌う。マントの前を割って出る、白い骨の手。マントの内側が、血を想像させる深紅色だった。
物語に書いてあったとおりの、大きな鎌が現れる。死神の背丈を越える、長さの柄。弧を描く鎌の身は、柄の半分くらいの長さ。振りかざされた瞬間、ナオはまぶたを閉じる。
頭の上を通っていく、風。足下を通っていく、気配。下腹に、強い衝撃。中心まで、達した。強い痛みも出たが。すぐに、治まった。
気配がなくなり、空気感が変わる。ナオは恐る恐る、まぶたを開く。元の橋に戻っていた。
「何だったのだろう、今のは」
ナオの独り言。鳥肌が立っていた。嫌な予感がする。見おろして、ケガの有無を確認した。
はっきりと言えることが、ひとつ。緑色の光は、自分を助けてはくれない。
{どこ、行く? どこ、行く?}
当の緑色の光が訊く。小さく、輪を作る。はしゃいでいた。
「右の肩に載って」
ナオは示す。緑色の光は、素直に載った。自転車を起こして、乗る。走らせながら、思う。
肩掛けカバンで、良かった。手提げカバンだったら、盗まれていた。
幸いなことに。歩いても、走らせても、体に痛みが生じなかった。
{ヒャッホー!}
坂をくだる。緑色の光は、風を切ることを喜ぶ。飛んでいったりしないか。ナオは心配したが、杞憂だった。
広い駐車場を抜けて、店の建物の前の駐輪場に自転車を止めた。
{何だ? これ! 何だ? これ!}
興奮した、緑色の光は店内を高速で飛び回る。
ナオは注意しなかった。並ぶ、棚の上。砂粒ほどの大きさ。叫んではいるが、他の客が見向きもしなかったので。
ピタリと、緑色の光が止まる。じっと、ナオを見つめた。視線を上げた時には、飛び回っていた。
やや、落ち着いたのか。緑色の光が下りてくる。肩に載ると、ナオの買い物する様子を観察した。会計時には、興味深げに眺めやった。
帰りの自転車を走らせる、ナオに質問攻め。独りごちる、妙な人に思われたくないが。人の通りが少ない所で答えた。
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