橋の上で、千客万来! (人外編) 1

{災難じゃったな}


「痛っ!」


 真後ろから、聞こえてきた声。不思議なことに、脳内で響いた。ナオにとって、あまり好きではない。背中に痛みが走る。


「近っ!」


 何事か。ナオは振り返る。危うく、目玉に刺さる所だった。驚きのあまり、名刺を放る。深い緑色の、先が尖った細い葉が生い茂っていた。


 三歩ほど、ナオは後ろに下がる。もみの木が立っていた。さっきまでは、いなかったはず。クリスマスまで、まだまだ、早いというのに。


{あれが持っていたのは、偽物。ここに、本物の願いの種がある}


 再び、不思議な聞こえ方をする声。もみの木の方からだ。ナオは困る。どこに、視線を向けたら良いか。先端恐怖症ではないが。見ていたいものではない。


 人語を操っても、木。人間のナオの嫌悪の感情なんて、判る訳がない。


 和らげるために、勝手に名前を付けることにした。


 少しばかり悩んで、ピッコロと付ける。緑色つながりだ。


{気の毒な、お前さんにくれてやろう}


「お気遣い、ありがとうございます。ですが、いりません」


{人との約束を破りたくはないであろう? ん?}


「妙な物を使ってまで、叶えたくありません」


 ピッコロの方から、一枝が伸びてくる。明るい黄色の光を放つ、丸い物が載っていた。大きさは、小指の先ほど。


 にべもなく、ナオは断る。かぶりを振った。少女の自殺を防止するために、世界的な歌姫を出しただけで。本気で、目指す気はなかった。


{おまけで、我の力を五つ、くれてやろう}


「いりませんって」


 ポトン。ピッコロは落とす。明るい黄色の光を放つ物を。ナオが断る中、五つの白い光を放つ物を落とす。


{足りぬか? なら、もう五つ、くれてやろう}


「いりません」


 更に、ピッコロは五つの白い光を放つ物を落とす。断った、ナオは考えてしまう。


 ピッコロには、受け取るまで待つ発想はないらしい。それとも、後ろに下がらなければ。体のどこかに載せられたか。


{さて、渡したことだし。帰るかのう}


 へ? 渡したことになるんだ。


 ピッコロの真後ろに、黒々した楕円形の穴が開く。下がるようにして、くぐり抜けていった。


{あ~。せいせいした}


 穴が閉じる瞬間、ピッコロのつぶやきが聞こえた。


 仕方ない。


 ナオは種と力を拾う。手のひらが温まる。願いの種だか知らないが。気づいて、悪い事に使われたら。目も当てられない。


 アスファルトを確認。手の中の種と力の数を数える。倒れている自転車に向かって、歩き出した。


{おなか、空いた~!!!}


 子どもの声が響き渡る。子どもなんて、いなかった。ナオは足を止める。振り返った。間違いなく、子どもはいなかった。


 じっと、ナオは見つめる。何かの気配は感じた。試しに、力を放ってみる。山なりになって、飛ぶ。天辺を越えた宙で、消える。何か、居るのは判った。


{もっと!}


 気配の主は、おかわりを要求してきた。ナオは力を放ってみる。さっきと、軌道が左にずれた。わざとではない。


 素早く、水平移動したのか。次の力も、途中で消える。気配が強まった。


{お前って、良い奴だな}


 気配の主が言っているように、聴こえた。ピッコロつながりか。面白くなって、ナオは要求されるままに放った。


 ケプッ!


 満足そうな、空気感。とうとう、ピッコロが置いていった、すべての力が食べられてしまった。


 正面に、小さな、小さな、光。小指の先の大きさで、緑色の。光が前後に動く。後ろにいくたびに、コツン、コツンと音が立つ。


{おい! お前、開けろ!}


「できないよ。やり方を知らないし。力は、あなたが食べちゃったでしょう?」


 緑色の光が、偉そうに命令する。ナオはかぶりを振った。理由も伝える。


{ビャーッ!!!}

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