第4話 バーテン! 鉄パイプ女!!
《前回のあらすじ》 鉄パイプ女、ビブリアタイタン殺しの犯人を捜索。
寒空。越冬。道に続く人は かじかむ手を携えて、白い息を煙突のように離しながら足を急がせていた。世は師走ドキ! それも15の数字を超えた後半戦だ! やれ年末になった学生諸君は、乗り越えた期末テストの点数に一喜一憂しながら、冬休みの予定について団子になって話していた。
その、集団の横を、通り抜ける。鉄パイプ女は、その学生たちと同じように、う~んと頭を悩ませていた。
「どうすっかねぇ」
ぽつりと放る。登校中の学生が振り向いた。『あれ? あの人…』 少年は疑問に思いつつも、「おーい!」 同じ美術部の仲間に呼ばれ、また歩き出した。
『総当たり…うぅ、メンドクセェ』
そう思っちゃったところで、女に総当たり以外の考えはなかった。探偵業を初めて5年。あらゆる依頼を力技とシラミツブシで解決してきたその手腕は、『ブチキレてるって宣伝したいなら、鉄パイプ女に頼め』 と界隈で評判だった。総当たりなので、調査されてるって情報は相手の耳に嫌でも入る。逆にバレたくないなら絶対 頼むな。との評判もあった。
耳のピアスが揺れる。冬場は何故だか、穴が少し痛んだ。
『つっても、う~ん。ドコをあたりゃいいんだろうなぁ』
こいつぁ考えるのが苦手だった。記憶力は人並みにあるので情報を忘れることは無いが、その材料をもとに考察をするのが大の苦手だった。今、鉄パイプ女の脳裏には『ビブリアタイタン』、『皆殺し』、『犯人』 のワードがある。だが、コレを元にどう調べるかとなれば…
『…アイツに聞こ。ムズすぎる』
鉄パイプ女は考えに至ると、街にある大きな駅へと足を向けた。
…4番街にある一番大きな駅。その地下街をグリグリ進んでいくと、やがて目に映るバーがある。朝に眠るようにネオンの暗く、嵌め込まれた曇りガラスのドアは微動だにせんといる。代わりに、掛けられた『Close』 の板が揺れていた。
鉄パイプ女はドアを開けると、当然のごとく足を踏み入れた。
店内は暗い。外観と同じく、深い眠りについていた。おっと ところがだ。カウンターの方を見た時、比喩じゃなく深い眠りについている男が見えるはずだ。腕で枕を作って、グースカーピーピー寝息を立てている。
「おいっ、起ーきーろーよー」 鉄パイプ女はその肩に近づくと、力強く むんずと掴んで揺さぶった。
「起ーきーろっ!」
「う、う~ん。あぁスイマセン営業時間…? あぁ…うん…なんだ君か」
男は、まぁ心底ダルそうに体を起こした。まるで巨人が腰を上げるときみたいに、ゆっくりと。白髪交じりの立派な口ひげと、シワも味になるダンディーな顔があらわになる。
「まったく、いつだって騒々しいな。君は」 男は口を擦ると、近くの おしぼりに乗せていた老眼鏡を掛けた。
「どうしたんだい? 鉄パイプ女君。こんな朝ふけに。私の記憶が正しければ、君も同じ夜族だったと思うが」
その男。名乗るタイミングもなさそうなので、説明しよう! 名を『ショット男』 。地下街ができた当初からこの地にバーを構える、歴戦のバーテンダーだ! 渋っぽい雰囲気とたまに出る天然がチャーミングだぞ! 得意料理はパエリア!
「ジジョウがあんだよ こっちにもさ。そりゃもう ふっか~いジジョウがな」
ショット男は口ひげを触った。ありがちな、考えるときの癖だ。ドラマなんかでやってるのを見て、真似してたらいつの間にか根付いてた癖ってあるよね。きっと。
ショット男は思いついたように、ピン! 鉄パイプ女の顔を見た。
「依頼か。確かに、聞き込みに回るんなら皆起きてる朝の方が良い」
「ブッブー、は~ずれ。正解はなんか……アレだ! 色々あったんだよぉッ 色々と!」
はずれ…ではない。実際 『ムリやり起こされた後で依頼を頼まれている』 ので、ショット男の言い分も半分は当たっていた。しかし、『は~ずれ』 と言った時点で鉄パイプ女の脳に正解の文言は浮かんでないし、何かグチャグチャになったので大声で誤魔化したのだ。
ショット男はため息をつくと、カウンター椅子から立ち上がった。
「分かった分かった。どうやら何か災難があったらしい。ホラ、一旦落ち着いて、ここに座りなさい」
そう言って、自分の座っていた椅子を指さす。
「あん? 別に立ってでいいよ」
「そうはいかない。ここがバーで、私がバーテンダーな以上。君だけが立っているなんて あり得ないからね」
「なんじゃそりゃ…」
だが有無を言わす間もなく、気付けばショット男は カウンターの向こうに行ってしまっていた。仕方なく、鉄パイプ女も椅子の座る。それから頬杖をついて、足を組んだ。
「背もたれの無い椅子は苦手かね?」
「別に、何もねぇよ」
「そうなのかい? すまない。以前に君を見かけた時は、随分と背もたれにヨレ掛かっていたものだからさ。背もたれが好きなのかと」
「好きじゃねぇよ。バカにしてんのかコノヤロウ」
「はは、こりゃあ失礼」
「チッ」
舌をウつままに、鉄パイプ女はついていた頬杖を外し、カウンターに置いた。それから指先で、トントン机を叩く。
「ビブリアタイタンが全員死んだ話。知ってんな?」
ショット男はちょっとばかし目を丸くした後、頷いた。
「もちろんだとも。ニュースで見ない日はないよ」
「誰だと思う? 犯人」
「…鉄パイプ女君」
ショット男は呆れた様子で、今度は首を横に振った。
「その口ぶりだと。まるで君がやったように聞こえるね」
「なわきゃネェだろ! ブッ飛ばすぞ!」
「冗談冗談…とは言ったものの。鉄パイプ女君。それが分かるなら私はバーテンダーなんかやらずに、今頃スーパー捜査官として大金持ちになってるだろうさ」
「んだよ。バーには情報が集まるって聞いてたのに」
「以前も言ってたよね、ソレ」
以前とは? そう…鉄パイプ女は探偵としての依頼が舞い込むたびに、ショット男に助言を貰いに来ていた。そう言いますのは、鉄パイプ女単騎の脳じゃドコをドウ調査していいか分からないからです。なので自分の知り合いの中から賢い人TOP3に助言を貰い、行動の指針を立ててもらっているのです。口の悪い甘ちゃんだこと。
「マジか…おい、ハッポウフサガリだな」
「驚いた。難しい言葉を知ってるね」
ちなみにヤンキー女も賢さTOP3に入っている。が、朝っぱらにキツく言われたので、ふてくされて頼れなかった。あとの一人は遠方在住の会社勤めなので、今のとこ電話に出るか怪しい。
「ところでなんだが、どうして事件について調べてるんだい? そりゃ今や色んなトコが追ってるんだろうけどさ。君はその…好奇心で動くタイプじゃないだろう?」
「あぁ、柏木一門に頼まれたんだよ」
言うな! 依頼者の名前を軽々しく! …これがさっき説明した、『ブチキレてるって宣伝したいなら、鉄パイプ女に頼め』 の秘訣だった。そりゃショット男は他人に漏らしたりしないだろうが、ほかでは事情が違う。すぐに広まる。
「柏木一門か…確かに、あそこはビブリアタイタンと同盟を結んでいた。メンツを重んじる あの組のことだ。是が非でも犯人を見つけたいだろうね」
「その辺は分かんねぇよ。俺ぁとにかく犯人を見つけて金を貰うんだ」
「そうは言ってもねぇ。ものすごーくザックリした目星なら付いているが」
「マジか! くれよ!」
「くれって…」
ショット男は呆れを通り越して、もはや心配になっていた。が、マァいつものことだ。口ひげを触り、己の考えを話し始める。
「ビブリアタイタンを壊滅させたとなると、少なくとも一人じゃないあるまい。複数名。それも能力持ちだろうな。さらに考えなきゃならんのは、なぜ壊滅させる必要があったのか。これに尽きる」
「おー、おー」
「シンプルに考えるなら、邪魔だったからだろう。もちろん他の組織にとっての話だ。邪魔になったから消した。よくある話じゃないか。となれば犯人は当然、どこかのグループに所属する人間になる」
「おー…どこなんだよ」
「明言は出来ないさ。ただ、ビブリアタイタンが消えて都合が良い。強力な能力者が複数人いるグループともなると…私の考えうる限り、3つはあるな」
「なんだよ」
「…『ギガロドンバイト』、『
『ガタッ!』 …鉄パイプ女が、椅子から勢いよく降りた!
「なるほどな。オッケー…ここに来て正解だったぜ」
「一応言っておくけど、全然違う可能性もあるからね。推測に推測を重ねた結果の邪推であって…」
「分ーってる分ーってる! 心配すんな!」
「本当かい? 鉄パイプ女君。ハッキリ言って今回の件、今までのモノとはワケが違うよ」
真剣な眼差しが、鉄パイプ女を射貫く。
「事件の規模もそうだが…何だか、嫌な予感がする」
「へっ! だーかーらー、心配すんなっての。元気に来年 迎えてみせらぁ」
「そりゃあ、そうだといいが…まぁそうだね。君なら大丈夫なんだろう」
ショット男はそう言うと、おしぼりの上に老眼鏡を置いた。
「私はまた眠るとするよ。それじゃ、良いお年を」
「はいはい、ヨイオトシを~」
鉄パイプ女は手をぶらぶらと振ると、あっけらかんとした足取りでバーから出て行った。世は師走ドキ。早まる足取りは、次なる目的地に向いていた。
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