第8話

頭がいたい。

熱をもっているせいで目も閉じかけていた。これでは事故を起こしてしまうだろう。



自販機で飲み物を買おうとバイクを停めたリュウは、ふたり掛けのベンチに腰をおろした。ヘルメットをはずすと、痛みはすこし和らいだ。革ジャンを脱ぎ、自販機へと足を進める。



購入したコーヒーを一口のみ、ほっと息をついたリュウは、ひとりぽつんと立っている女を見つけた。そこは、リュウの目と鼻の先にあるホストクラブの前の木の下だった。



女の視線はクラブの看板に向けられていた。なにかに迷っているようで、困惑した横顔は動かなかった。そこをなまぬるい風がうねるようにすぎていく。にぎわう繁華街、女の周りだけは時間が止まっているように見えた。



ふと、女が視線をリュウに向けたようだった。なにかに操られたようにふたりの視線はからみあう。すこし髪のかかった女の瞳は、先ほどとかわって力強く、リュウは思わず吸いよせられるように立ち上がった。



「……っ!」


その瞬間、リュウは頭に激痛をともない、ぐらりとゆれた身体は地面にたおれていった。





最後に見たのは、おどろいた女の、きれいな瞳だった。

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