裏工作(backroom campaign)
No.Ⅱ
2059年8月15日金曜日、午後4時過ぎ。
甲賀から任務完了の連絡を受け、細田さんの自宅で待機していると、視界がわたしの自室に切り替わった。
恐らく狙い通りに、源初がラプラスを発動した上で自らの命を絶ったのだろう。
これで、白井キイがどんなに時間を遡ろうとも、源初を助けることは出来ない。固定化された未来は、決して変えることは出来ないからだ。
だが、白井キイは源初と結ばれる未来を、
源初の死は、絶対に避けられないのに。
そうなれば当然、白井キイは過去改変以外の方法を血眼になって探すだろう。
2つのラプラスの映像を同時に満たす方法を。
「すいませーん」
わたしは町の外れにある神成書店という本屋の前で店員を呼んだ。
「はーい」
返事をしながら、金髪の男性が店の中から小走りで出て来る。
「あ、森羅さん」
「お久し振りです、神成君。ツイは中にいますか?」
「研究室の方にいますよ。どうぞ上がってください」
「ありがとうございます」
店の奥に行き、エレベーターに乗って地下室へ向かう。
そして、普段は静脈認証によってロックされている金属扉の前に立つと、ゆっくりと左右に開いた。
「真理か、久し振りだな」
今日も上から下まで見事にギャルしているツイは、電子タバコを片手にそう言った。
相変わらず今日も露出が多い。
「久し振りですね、ツイ。元気にしてましたか?」
「つい1時間前までガリガリのおっさんの中に入ってたから、今は反動で超元気だぜ。やっぱり自分の身体ってのは最高だな」
そう言って、ツイは快活に笑った。
「それは良かったです」
「で、今日はなんの用だ? 遊びの誘いってわけじゃねぇだろ?」
「ええ。実はちょっと口裏を合わせてほしくて」
「構わんが、誰に対してだ?」
「K.S――白井キイです」
「白井キイって、あれだろ? 白井ロボティクスの」
「はい。彼女が数日中にここに来るはずです。未来の自分からのメッセージに従って、最愛の人を手に入れるために」
わたしは敢えて、ツイに嘘の情報を伝えた。
「未来の自分からって……白井キイはタイムマシンでも持ってるってのか?」
「はい。それはここに来る前、THE ANSWERでも確認済みです」
「成る程。で、アタシは何を伝えればいい?」
「白井キイがK.Sであることを伝えてください。それで、全て察すると思います。彼女、頭は悪くないので」
これで、白井キイは、源初の死からここまでの流れを、未来の自分が源初のクローンを手に入れるために画策したものだと思うはずだ。
と言うか、思ってくれないと困る。
他の誰かが手を引いていると分かれば、白井キイはタイムマシンを使って犯人探しを始めるだろう。
まあ、それを防ぐためにも、源初にはラプラスによって自身の死を変えられないようにしてもらったわけだが。
「了解。ハリウッド女優ばりの演技見せてやるぜ」
「期待しています」
この3日後――2059年8月18日月曜日、午後3時過ぎ。
わたしは白井キイに対して、
『彼を運命の呪縛から解き放ちたければ、この場所に行け』
というチャットを送った。
K.S――未来の白井キイになりすまして。
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