Starting Material(起点物質)


 No.4


 ヴィーナさんの家に着くと、家で待っていた真中さんが迎え入れてくれた。


「どうぞ」


 ヴィーナさんの「新垣君は?」という問い掛けに対して、真中さんは「リビングで待たせてある」と答えた。


 そしてそのまま、階段を降りて地下の研究室に向かう。


「自宅にこんなスペースがあるなんて凄いですね……」


 俺がそう言うと、森羅さんは「そうですかね? 普通じゃないですか?」と言った。どうやら、彼女の家にも同じような設備があるようだ。


 ヴィーナさんが右手を認証装置にかざし、金属製の扉を開く。


「テスト君、エキゾチック物質持って来て」


 ヴィーナさんが部屋の中にいたロボットに指示を出すと、ロボットは「承知いたしました!」と言って青と赤の光る鉱石を持って来た。


 どうやら、この宝石のような物質がエキゾなんちゃららしい。


「それじゃ、細田さん。お願い出来ますか?」


「分かりました」


 ヴィーナさんの指示を受け、オレは頭の中で『この物質が今回の入れ替わり現象の原因ですか?』と唱えた。


 瞬間、50%の表記が現れる。


「50%と出ました」


「50、半分ですか……それなら、原因はもう1つありそうですね。ちなみに、このエキゾチック物質を他の誰かに譲ったりは?」


 森羅さんがそう聞くと、真中さんが「白井キイ、奴に少しだけ譲った」と答えた。


 瞬間、森羅さんの顔が、僅かに濁る。


「……ああ、彼女ですか」


「白井キイって、あの白井ロボティクスの社長令嬢ですよね? 森羅さん、知り合いなんですか?」


「1年前に少し。まあ、確かに彼女なら、この件に何か関わっていてもおかしくないかも」


「なら、今から会いに行きますか?」


「そうですね。行きましょう」


 オレと森羅さんが動き出そうとした瞬間、ヴィーナさんが「2人とも、ちょっと待って」と言った。


「どうしたの、ヴィーナ?」


「2人に試して欲しいことがあるの」


 そう言うと、ヴィーナさんは機械を操作し、隣の部屋に小さなブラックホールのようなものを生成した。


「ヴィーナ、あれは……?」


「タイムホール。あれを使えば、今とは異なるタイムラインに行くことが出来る。わたしも太陽もあれを使ったことがあるから、入れ替わりが発生しなかったのかなって。だから、あれを使えば、2人の入れ替わりだけなら解消出来るかも」


 オレは思わず「え、ちょ、ちょっと待ってください」と割って入った。


「今とは異なるタイムラインに行けるって、タイムトラベルが出来るってことですか……?」


 オレの問い掛けに対して、真中さんは「そうだ」と答えた。


「ただし、過去の改変にはそれなりの危険が伴う。むやみやたらに使用するものではないぞ」


 そう語る真中さんの表情には、過去に何かあったのだろう、苦々しい感情が滲み出ていた。


「一応、出口は1日前のここに繋いであるけど、外には出ないでそのまま戻って来てね。太陽の言う通り、過去の改変はかなり危険だから」


 ヴィーナさんの指示に対して、森羅さんは「分かった」と返した。


「それじゃ、細田さん。行きましょうか」


「……はい」


 想像以上にスケールの大きな話に後ろ手を引かれながらも、オレは森羅さんについてタイムホールに飛び込んだ。

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