THE ANSWER
Encounter(邂逅)
No.1
オレ――
それは、馬鹿という単語についてだ。
EXtENDの検索結果によると、馬の知能は人間の3歳児程度、鹿は犬や猫と同等らしく、動物の中でも特段知能が劣っているというわけではないらしい。
それなのに、その2つが合わさると馬鹿になってしまうのは何故なのか。
そう思い、今度は馬鹿の語源を調べてみると、馬鹿はサンスクリット語の「moha(無知)」の当て字ではないかという記載が見付かった。
要するに、馬と鹿自体はバカではないということだ。それなのに勝手に漢字を当てられ、まるでバカの代表のように扱われている馬と鹿には同情を禁じ得ない。
ところで、オレはバカだ。
にも関わらず、世界有数のエリート企業である白井ロボティクスの入社を目指しているというのだから、バカ以外の何者でもないだろう。
そんなオレは、今日も今日とて、お気に入りの喫茶店である『Numbers』で面接の練習問題に挑戦していた。
「なになに……貴方の目の前には2つの扉があります。それぞれの扉の前にはゴリラが1頭ずついて、傍らの立て札にはこう書かれています。『一方の扉は未来に繋がっており、もう一方の扉は過去に繋がっています。ゴリラは「はい」か「いいえ」でしか答えられません。また、1頭は真実しか語らず、もう1頭は嘘しか語りません』。貴方はどちらのゴリラにどんな質問をすれば未来へ行けますか? ただし、質問出来るのは1回だけです……はぁ?」
全然意味が分からない。そもそも、なんでゴリラが門番なんてやってるんだ。
「根を詰め過ぎても良い結果は出ないよ、細田君」
そう言って、Numbersのマスターである益田さんは、オレのテーブルにホットのブレンドコーヒーを置いた。
湯気と共に芳ばしく、奥行きのある甘い香りが立ち上がる。
「いや、オレみたいなバカは根詰めてナンボですよ」
オレはそう言ってから、コーヒーに口をつけた。
いつも通り、いや、いつも以上に味わい深くて美味い。やはり、益田さんの淹れてくれたコーヒーは最高だ。
「ああ、やっぱり益田さんの淹れてくれたコーヒーは落ち着くなあ」
「細田君、そのコーヒーを淹れたのは私じゃないよ」
「え、それじゃ、このコーヒーは一体誰が……」
「彼女だよ。先週からうちで働いてもらってるんだ」
そう言って、益田さんはカウンターの方を見た。
カウンターでは、銀髪の小柄な女性が、他の客の分のコーヒーを淹れている。
そしてオレは、その女性のことを知っていた。
「
「あれ? もしかして知り合いかい?」
「知り合いと言うか、一方的に知っていると言うか……そもそも、益田さんは彼女のこと知らないで雇ったんですか……?」
「うちのコーヒーが好きだと言うから雇ったんだけど、もしかして、真理ちゃんって有名人……?」
オレは思わず溜め息を吐いた。
まさか、益田さんがここまで世間知らずだったとは。
「……超がつくほどの有名人ですよ。何せ、EXtENDを生み出した天才ですから」
「え、これ、真理ちゃんが作ったの!?」
益田さんは自分の左腕に着けられたEXtENDを見ながら、驚きの表情を浮かべていた。
「そうですよ。でも、そんな人がどうして喫茶店でバイトなんかしてるんだろう……」
「なんかとはなんだ、なんかとは」
「いやいや、別にNumbersを下に見ているわけではなくて。単純に、なんでかなーと。お金なんて、腐るほどあるでしょうし」
「バイトをする理由は、別にお金の為だけじゃないんじゃないかな」
そう言って、益田さんは再び森羅真理の方に視線を遣った。
確かに、客と話している彼女の顔は輝いている。テレビやネットでは見たことのない楽しそうな表情は、彼女がお金以外のもののために働いていることを物語っているようだ。
「成る程……ちなみに、森羅さんはどれくらいのペースでシフトに入ってるんですか?」
「毎週、火曜・木曜・土曜の午前10時から午後6時までかな。もしかして、細田君。真理ちゃんのこと口説こうとしてる?」
「違いますよ。彼女が淹れてくれたコーヒーが美味しかった。それだけです」
そう言って、オレはコーヒーを一飲した。
うーん、やはり美味い。
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