決定要因
ステージⅢ ④
オルニスとラプラスは封印され、交通事故から救出されなかった僕は死んだ。
そのはずだった。
だが、僕は生きていた。
生きて、オルニスを装着した状態で、第二研究室の中央に立っていた。
部屋の隅には、僕が1年前に跳んだ時と同じように、キイさんが意識を失ったまま座っている。
「どうして何も変わっていないんだ……」
まさか、キイさんは僕との約束を反故にしたのか……?
でも、一体、なんのために……?
「こうなったら、もう一度過去に行って、オルニスを破壊するしか……」
それしか、この世界を元に戻す方法はないだろう。
そう考えた僕はすぐに「ジャンプ」の言葉を口にしたが、いつまで経っても視界は変わらず、いつものような浮遊感に包まれることもなかった。
「どうして……どうして動かないんだ……」
「さあ、どうしてかしら?」
声をした方を見ると、そこにはいつの間にか目を覚ましたキイさんが立っていた。
「キイさん……」
「ごめんね、ウイ君。オルニスは止めさせてもらったわ」
キイさんがそう言うや否や、オルニスが僕の身体から解除された。
「どうして……キイさんは、世界がこのままでもいいんですか……?」
「大切な家族を失うよりはね。それに、このまま放っておいても、人が死ぬわけでもないし、世界が崩壊するわけでもない。混乱の真っただ中にいる人達だって、数週間もすれば今の身体に慣れるわよ。否が応でもね」
「…………」
淡々と語るキイさんを見て、僕は痛感した。
最後に運命を決めるのは、ラプラスのような超能力でも、オルニスのような超科学でもなく、他ならぬ人間なのだと。
「確かに、キイさんの言う通りかも知れませんね。この世界は僕が思っているよりも柔軟で、こんな狂った状況も、時間が経てばいつかは受け入れられるのかも」
この場を収めるために、僕はこれっぽっちも思っていない同意の言葉をキイさんに投げ返した。
「そうそう。だから、自分のせいで、なんて思っちゃ駄目よ」
「ありがとうございます」
「あ、そうだ。今日、プリン買って来てあるの。よかったら一緒に食べて行かない?」
「いいですね、プリン。いただいていきます」
そう言って、僕は偽りの笑顔をキイさんに返した。
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