強行
ステージⅢ ③
おかしくなってしまったこの世界を戻す鍵は、ラプラスとオルニスにある。
たった十数回の未来視で運良くそのことを突き止めた僕は、体力回復の後、準備を整えてからキイさんの家に向かった。
「ウイ君? 急にどうしたの?」
玄関から出て来たキイさんは、怪訝そうな表情で僕を見た。
「すいません。お話があるので中に入れてもらいませんか?」
「勿論、入って」
「ありがとうございます、お邪魔します」
玄関に上がり、そのままキイさんについて2階のリビングに向かう。
「座ってて」
キイさんの指示通りリビングの椅子に腰を下ろすと、彼女はキッチンから2つのアイスコーヒーを持って来た。
「それで、話って?」
「……答えてください、キイさん。今回の一件、原因は僕達が行った未来改変にあるんですよね……?」
僕がそう問い詰めると、キイさんは「……ええ」と漏らした。
「今回の一件は、ラプラスとオルニスの併用に原因があると見て間違いないでしょうね」
そんなキイさんの告白に対して、僕は「やはり、そうでしたか……」と呟いた。
「ウイ君が1年前のウイ君に救出された日の夜中に入れ替わり現象が発生しているし、大多数の人間が入れ替わっている中、オルニスを使用したことのある私達には入れ替わりが発生しなかったことを考えると、ね」
「…………」
思い返してみれば、あの夢の中で視点が移る際、背中を思い切り押されたような感覚があった。
もしかしたらあれは、1年前の自分が、自らが進むタイムラインの延長線上にいる、1周前の自分の精神を押し出した時に生じたものだったのではないだろうか。
そして、その押し出された精神を睡眠中に回収しているのであれば、押し出された精神には、僕が寝るまでの数時間、フリーの時間があったことになる。このフリーの時間に何かしらの悪さをしてしまった可能性は、十分考えられるだろう。
例えば、他人の精神を押し出すだとか。
「キイさん、僕にもう一度オルニスを貸して頂けませんか。今度は過去に行って、この現象をなかったことにしてきます」
僕がそう言うと、キイさんは目を大きく見開いた。
「ウイ君、それがどういうことか分かってるの……?」
「勿論です」
過去に行き、オルニスを破壊することにより、全ての未来改変をなかったことにする。
それはつまり、ラプラスで見たデフォルトの自分を事故から助けないということだ。
タイムパラドックスにより阻まれる可能性もあるが、成功すれば、デフォルトの自分はトラックに轢かれて死ぬことになるだろう。そうなれば、世界線の移動が起こり、僕のいない世界へシフトすることは想像に難くない。
「……だったらなおのこと、オルニスは貸せないわ」
「キイさんならそう言うと思ってましたよ」
僕は椅子から立ち上がり、キイさんの近くに移動した。
そして、
「ウイ君、何を――」
僕はポケットに隠し持っていたスタンガンをキイさんの身体に押し当てた。
瞬間、彼女の身体がビクンと飛び跳ね、首が力なく垂れ下がる。どうやら、ちゃんと気絶してくれたようだ。
「すいません、キイさん……」
僕は気絶したキイさんを担ぎ、第二研究室のある地下に下りた。
静脈認証装置にキイさんの右手を当て、ロックを解除する。第二研究室に入り、気絶した彼女を椅子に座らせてから右手の指を鳴らす。
「……よし」
僕は地面から現れたオルニスを装着し、設定を変更した。
目的地はこの場所、時間は1年前、僕が初めてオルニスを使用した日の前日だ。
「すいません、キイさん。行ってきます」
キイさんから返事がないことを確認してから、僕は「ジャンプ」と呟いた。
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