報告


 ステージⅠ ⑤


 身体を包み込んでいた浮遊感が消滅すると、僕は元いた第二研究室に戻って来ていた。


 僕の方へ駆け寄って来たキイさんと、バイザーを上げて対面する。


「ウイ君、どうだった?」


「無事、助けることは出来ました」


 僕の言葉のニュアンスを感じ取ったのか、キイさんの表情が変わった。


「助けることは、ってことは、未来の世界で何かあったのね……?」


「はい。僕が助けた1年後の僕は、自分が事故に遭う映像もラプラスで見ていなかったし、オルニスのことも知りませんでした。つまり、僕の持つ記憶と差異があったんです」


 僕がそう言うと、キイさんは眉をひそめた。


「記憶に差異? 私の時には、そんなことなかったはずだけど……」


「キイさんの時にはなかった……? それじゃ、やっぱり……」


「ウイ君のラプラスが何かしらの影響を与えた可能性はあるでしょうね。勿論、そうじゃない可能性も十分あるけど。例えば、ウイ君や私が行った未来は、実はこの世界線とは地続きじゃない並行世界だった、とか」


「成る程……」


 確かに、あの未来が並行世界のものなら、僕と1年後の僕の間に記憶の差異があるのも頷ける。


「でも、その場合、この世界にいる1年後の僕は救えていないということになりますよね……?」


「そうなるわね。でも、安心して。もしそうだったとしても、私がオルニスを使ってウイ君を助けるから。幸いなことに、事故の起きる時間と場所も分かってるしね」


 確かに、オルニスの加速装置を使えば、トラックに轢かれそうになっている僕を助けることなど造作もないことだろう。


「ありがとうございます」


「それまでは念のため、ラプラスもオルニスも使用しない方がいいでしょうね。ところで、ウイ君。お腹空いてたりしない?」


「ああ、言われてみれば結構空いてますね」


「それじゃ、これからパンケーキでも食べに行かない? この間、隣駅に凄く美味しいパンケーキ屋さん見付けたの」


「あの、キイさん。行きたいのは山々なんですが……その前に、オルニスの外し方を教えてくれませんか……?」


 この後、僕はキイさんにオルニスの解除方法を教えてもらい、パンケーキ屋に向かった。


 なんとも言えないモヤモヤとした感情を、胸に抱えたまま。

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