太陽と月
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わたし――望月ヴィーナには、小さな頃からずっと好きな人がいる。
彼の名前は真中太陽。
幼馴染の彼は、つっけんどんで表面上冷たく見えるが、実はとても優しいし、他の誰よりもカッコいい。
しかし、そんな彼にも致命的な、許し難い欠点が一つだけ存在する。
それは、わたしを女性として見ていないことだ。
確かに、わたしは身長も小さいし、胸やお尻も大きくないし、女性としての魅力に欠けていると言えなくもない。
しかも、太陽とは物心つく前からずっと一緒だった。今更女として見ろという方が無理な話なのかも知れない。
だけど、わたしは太陽が好きだ。
太陽にはわたしだけを見ていて欲しい。
だから、わたしは太陽の気を引くために色々なことをしてきた。
だけど、太陽がわたしを好きになることはなかった。
そんなある日。
太陽が一目惚れをした。
相手の名前は片庭ルナ。
混じり気のない真っ黒で艷やかな髪、美しさだけでなく強さも感じさせる切れ長の目、通った鼻筋に発色の良い唇、ボリュームのある胸と対照的に細い腰回り、細いが適度にハリのある長い脚――見た目はいかにも太陽が好きそうな女だった。
しかし、ツテを使って片庭ルナのことを調べてみると、想定外の事実が判明した。なんと、彼女はプロの殺し屋だったのだ。
殺し屋のような悪人なら、殺してしまっても問題はないだろう。
そう考えたわたしは、キイに貰った戦闘用のロボットを片庭ルナの友人である車戸メイそっくりに仕立て上げ、彼女に差し向けた。勿論、太陽がタイムホールを使用し、彼女を助けようとすることを承知の上で。
その後、太陽はわたしの予想通り、何度も並行世界に跳び、並行世界の自分の協力を得ながら、見事片庭ルナを助け出すことに成功した。
ただ一つ予想外だったのは、太陽があんなにも早く片庭ルナを運命の呪縛から解放したことだ。流石は太陽、と言うべきだろう。
と言っても、予想から外れたのは微々たるものだが。
そして、最終フェーズ。
太陽は、苦労して助けた片庭ルナに絶望の中で殺され、その運命を書き換えたわたしのありがたみに感謝することになる。
勿論、太陽の殺害を片庭ルナに依頼したのは、他ならぬわたしだ。
どうして、好きな相手の殺害を依頼出来るのか。そんな風に思う人もいるかも知れない。
でも、その人には一生分からないだろう。
何故なら、わたしと違ってタイムホールを持っていないから。
タイムホールを使えば、何度だってやり直すことが出来る。
たとえ、命を落としても、奪っても。
やり直しが利くというのはそういうことだ。
「……太陽、もうどこにも行かないでね」
太陽の腕の中、わたしは笑いそうになるのを我慢しながら顔を上げた。
「ああ。もうどこにも行かない。お前を悲しませるようなことは、もうしない」
太陽がわたしの頭を優しく撫でてくれる。撫で続けてくれる。
そんな太陽の胸に、わたしは再び顔を埋めた。
堪え切れなくなった勝利の笑みを、偽りの観測者の目から隠すために。
第一章「エキゾチックタイムトラベル」完
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