断絶


 ●◯●


 9月6日、俺は白井から最強の打開策を受け取った後、すぐに9月4日の10時25分の世界に跳んだ。その時の筋肉とのやり取りは、まあ、語る必要もないだろう。前回とほぼ同じだ。


「太陽様、例の女が来ました」


 テスト君の言う通り、反対の曲がり角からパーカーの女が現れた。


「テスト君、例のやつを頼む」


「承知いたしました!」


 テスト君の外装が機械音と共に外向きに広がり、身体の中心に1人分のスペースが確保された。そして、そのスペースに俺が入り、俺とテスト君は文字通り一心一体の存在となる。


 オルニスプロト。


 機構にエキゾチック物質を追加し、機体の性能を飛躍的に向上させたテスト君を外装として身にまとうこの方法が、俺が運命の不変性を打ち破るために用意した打開策だった。


 テスト君を伝って、言葉では言い表せない強力なエネルギーのようなものを感じる。


「……今ならなんでも出来そうだ」


 自らを奮い立たせるための独り言に対して、テスト君が脳内で「私もです、太陽様」と返してくれる。流石は相棒だ。


 それから数分ほど待っていると、カフェの方から片庭さんがやって来た。


「あ、メイ。ごめん、待たせちゃった?」


 片庭さんが、壁に寄り掛かっていたパーカーの女に声を掛けた。


「ううん、全然待ってないヨ♪」


 いつも通り、パーカーの女がポケットに隠し持っていたナイフを取り出し、片庭さんの首元に切り掛かろうとする。


 それを、最早瞬間移動に近しいスピードで近付いた俺は、ダイヤモンドよりも硬いナノ双晶型立方晶窒化ホウ素でコーティングされた左腕で弾き飛ばした。


「な……っ!?」


「喧嘩を売った相手が悪かったな」


 俺は仰け反るパーカーの女の腹部を、右の拳で貫いた。


 テスト君の言う通りロボットだったのだろう、穴の開いた腹部から血は出ず、代わりにバチバチという音と火花が飛び散り、パーカーの女の身体から力が抜ける。


「片庭さん」


「はっ、はいっ!」


「貴女は今、ここにいる殺し屋だけでなく、様々なものから命を狙われています」


「ワタシの命を……?」


 そう言って、片庭さんは腹部に穴の開いたパーカーの女を見下ろした。


「嘘……ではないんでしょうね……」


「はい。なので少しの間、俺に身体を預けてもらえませんか」


 片庭さんは少し考えた末、「……分かりました。お願いします」と言った。


「それでは、失礼して」


「ひっ……!」


 俺は片庭さんを抱きかかえ、ビルの上までジャンプした。そしてそのまま、ビルの上を伝ってヴィーナの家を目指す。


 それにしても、オルニスプロトの性能には驚いた。これさえあれば、1人で軍を相手にしても勝ててしまうのではないだろうか。


「よっと」


 隣の家の屋根から、ヴィーナの家の前に着地する。何か起きてしまう前に家の中に入り、地下の研究室に駆け込む。


「ヴィーナ、扉を!」


「う、うん」


 待っていたヴィーナが奥の扉を開いたのと同時、俺は片庭さんを抱えたままタイムホールに飛び込んだ。


 この世界による運命の呪縛を、今度こそ完全に断ち切るために。

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