対抗手段


 ●○●


 チャットを送った翌日――9月5日の午前10時。


 俺とヴィーナは、白井の自宅を訪れていた。


 リビングのテーブルの上には、俺と白井のアイスコーヒー、そしてヴィーナのアイスミルクティーが置かれている。


「まさか貴方が私にお願い事をする日が来るとはね。それで、私に頼みって?」


「確か、白井ロボティクスで光学迷彩ステルス機能を搭載したパワードスーツを開発していただろう。それを一つ譲ってもらいたい」


「何に使うつもり?」


「人助けだ」


「ああ、成る程。例の女臭い女ね。別に構わないけれど、見返りは? 言っておくけど、私はお金とか興味ないわよ?」


「だろうな。だから、今日はこいつを持って来た。ヴィーナ」


「うん」


 俺の合図に従い、ヴィーナがカバンから青と赤のエキゾチック物質をテーブルの上に出した。


「何これ? 宝石?」


「エキゾチック物質だ」


 ぴくり、白井の目元が反応した。


「……ヴィーナ、今の話本当なの……?」


 俺が答えたにもかかわらず、白井はヴィーナに質問を投げ掛けた。


 相変わらず嫌味な奴だ。


 俺よりもヴィーナの方が詳しいと、そう思っているのだろう。まあ、その通りなのだが。


「うん、本当だよ。実際、そのエキゾチック物質を使って、タイムホールの生成にも成功してるし」


「タイムホール……と言うことは、未来や過去に行けるってこと……?」


「うん。太陽に協力してくれるなら、エキゾチック物質も、わたしがタイムホールを生成したやり方も、全部キイにあげるよ。それじゃ足りない?」


「足りないなんて……寧ろ、お釣りの計算に困っているくらいよ」


「だって。良かったね、太陽」


 そう言って、ヴィーナは優しく微笑んだ。


「全く、ヴィーナに感謝することね」


 そう言うと、白井はテーブルに手を着いて立ち上がった。


「スーツを取って来るから、そこで少し待ってて」


 白井が部屋の奥に消える。


 それから約5分後、白井が一着の黒いラバースーツとマスクのセットを持って来た。


「ステルススーツ――ヴァイス。まだプロトタイプだけど、人の目ならまず見付からないと思うわ」


 差し出されたスーツ――ヴァイスを白井から受け取る。


「恩に着る」


「これくらい、時間を手に入れられるなら安いものよ」


 こうして、俺はエキゾチック物質の一部とタイムホールの情報、そして自らのプライドと引き換えに、殺人鬼に対抗する手段を手に入れた。

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