幼馴染
●○●
片庭さんがカフェを出た後、俺も後を追い掛けるようにして外に出た。
店内で涼んでしまったせいで、酷く蒸し暑く感じる。全く、夏というのは朝から晩まで過ごしにくくて敵わない。
にもかかわらず、片庭さんは暑い素振りも見せず、スタスタと歩いていく。
歩く姿一つ取っても美しい。まるでモデルのよう――いや、モデル以上だ。
近くに行きたい気持ちを抑え込みながら、片庭さんに勘付かれないように一定の距離を保ちながら歩いていると、「あれ?」という聞き覚えのある声が鼓膜を揺らした。
「太陽、こんな所で何してるの?」
振り返ると、そこには首を傾げるヴィーナが立っていた。
睡眠不足は解消されたのか、顔色はすっかり元に戻っている。
「ヴィーナ……どうしてお前がここに……?」
「どうしてって、わたしがここにいちゃいけない?」
「いや、いけないってことはないが」
「なら別にいいじゃん。それより、太陽がカフェに行くなんて珍しいね? どうしたの?」
どうやら、ヴィーナは俺がカフェから出て来た瞬間を見ていたらしい。
「お前には関係ないことだ」
なんとなく後ろめたい気がして、俺はヴィーナから目を逸らした。
片庭さんの姿は既にかなり小さくなっている。今すぐ追い掛けないと、見失ってしまうだろう。
「ふ~ん。もしかして太陽、あの女性のこと追い掛けてる?」
そう言って、ヴィーナは片庭さんの背中を指差した。
「……違う」
「良かった。だったら、この後買い物付き合ってよ」
「……いや、これから友人と飯に行くんだ。だから、お前の買い物には付き合えん」
俺の言葉に対し、ヴィーナは「嘘だね」と即答した。
「一緒にご飯に行く友人なんて、太陽にいるわけないもん」
「もし仮にそうだったとしても、もう少しオブラートに包んで言うべきだな、そういうことは」
俺だからいいものの、他の人だったら怒ってるぞ、間違いなく。
「それで、本当は?」
「片庭さん……先程の女性を追っている」
「成る程。それじゃ、警察に電話するね」
そう言って、ヴィーナはEXtENDを起動し、空中ディスプレイを展開した。
「おい、ちょっと待て。俺の話を聞け」
「弁解の余地はないと思うけど」
「あるんだよ。俺はただ、彼女の情報を手に入れたいだけなんだ。罪を犯すつもりは毛頭ない」
「太陽、犯罪者は大抵そう言うんだよ」
「大抵の犯罪者がそうであったとしても、俺がそうであるとは限らんだろう。俺は急いでいるんだ、もう行くぞ」
「分かった分かった。それじゃ太陽、こうしよ。この後、太陽がわたしの買い物に付き合ってくれたら、今日以降、太陽の色恋沙汰には口を出さないし、太陽が困ったら、わたしが手を貸してあげる。それでどう?」
片庭さんの姿は既に見えなくなっている。今から追い掛けたとしても、追い付くことは出来ないかも知れない。
それなら、ここはヴィーナの提案を受ける方が生産的だろう。
「……分かった。それで、どこに行きたいんだ?」
俺が仕方なくそう問い掛けると、ヴィーナは身体をくっつけるようにして腕を組んで来た。
「それじゃ、まずはカバンを見に行こ?」
「……暑い。あと、歩きにくいんだが」
「警察って、呼んだらどれくらいで来てくれるんだろぉ?」
「……分かったよ。分かったから脅すんじゃない」
この後、俺はヴィーナに連れられカバン屋、洋服屋、靴屋と様々なお店を回らされ、家に着いたのは結局、夜の11時を回っていた。
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