理想の女性


 ●○●


 手に入れた8億円は、俺とヴィーナで2等分した。


 しかし、8億円は、半分になっても4億円だ。大卒のサラリーマンの生涯年収が3億円弱らしいので、無駄遣いさえしなければ、一生働かなくて済むということになる。


 まあ、無駄遣いしてなくなったら、また未来に行って、当選番号を調べてくればいいのだが。


「ヴィーナ様々だな」


 今までは顔と頭の良いただの幼馴染としか見ていなかったが、ヴィーナがいてくれて本当に良かったと心から思う。


 それと、エキゾチック物質の場所を教えてくれたチャットの送り主には、感謝してもし切れない。あのチャット来なければ、俺達が上之浦山に行くこともなかっただろう。


「さて、最初の買い物は何にする……か……」


 手に入れた4億円で何を買おうか思案しながら歩いていると、俺の視界を横切るように一人の女性が通り過ぎて行った。


 闇色の艶やかなポニーテール、強い意志を秘めていそうな切れ長の目、シュッとした鼻筋に色鮮やかな赤色の唇、山を想起させる胸に、それを引き立てるくびれたウエスト、細いがしっかりと筋肉のついた長い脚――どれを取っても、俺の理想に合致している。


「…………」


 身体が熱い、心臓がうるさい。


 あの女性から目を離すことが出来ない。


 もしかして、これが一目惚れというやつだろうか。


 是非ともお近付きになりたい。


 と言うか、付き合いたい。


 そう考えた俺は、目の前の女性を追うことにした。


「コーヒーショップ、か」


 女性が入っていったのは、時増駅近くのカフェチェーン店だった。


 少し時間を空けてから店内に入り、女性が頼んだものと同じエスプレッソシェイクを注文し、女性が座った席の真後ろに座る。


「…………」


 それにしても、美しい。


 これほどまでに女性を美しいと思ったのは、生まれてこの方今日が初めてだ。


「はい、片庭カタバです……はい……そうですね……」


 女性がEXtENDで通話を始めた。


 成る程、彼女は片庭さんというのか。


 それにしても、声まで美しいとは。神は二物を与えずと言うが、どうやらそれは嘘だったようだ。


「はい……終わり次第こちらから連絡させていただきます」


 通話を終えた片庭さんはエスプレッソシェイクを少し飲んだ後、カバンから紙の書類を取り出した。


 今時珍しい紙の書類には、女性の写真と経歴、住所などの個人情報が書かれている。


 履歴書を見ているということは、片庭さんは人事関係の仕事をしているのだろうか。


 カフェで個人情報を見るのは、いささか不用心だとは思うが、良い情報を手に入れた。


 俺は、祝杯代わりに彼女が飲んでいるものと同じエスプレッソシェイクを口に含んだ。

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