1週間後の世界


 ●●○


 タイムホールに飛び込んだ瞬間、強烈な浮遊感に襲われた。ジェットコースターで急激に下降する時に生じる、内臓が持ち上がるようなあの感覚を強くした感じだ。


 そして、細胞一つ一つが外へ外へと引っ張られているような、表と裏が、右と左が入れ替わるような不思議な感覚に包まれたと思った次の瞬間には、俺は研究室の地面にゴミのように転がっていた。


「大丈夫ですか?」


 くらくらする頭をなんとか上げると、そこにはテスト君が立っていた。


「お前か……今は何年の何月何日だ?」


「2058年8月27日、時刻は午前10時52分です」


 俺がタイムホールに入ったのは、2058年8月20日の午後2時過ぎだ。


 時刻こそ違うが、どうやら本当に、1週間後の世界に来たらしい。


 俺は立ち上がり、「ヴィーナは? 今どこにいる?」とテスト君に問い掛けた。


「ヴィーナ様は現在外出中です。お呼びしましょうか?」


「いや、いないならいい。俺が来たことだけ伝えておいてくれ」


「承知致しました」


「あと、テスト君。確か、ロト8の発表が今日の10時にあったはずだろう。一等の当選番号を教えてくれないか?」


「一等の当選番号は58229045です。なお、該当者はおりません」


 俺はテスト君が教えてくれた番号を頭に刻み込むと同時に、セット接続から切り離されたEXtENDにメモを残した。


 これで、8億円は手に入れたも同然だ。


「この後はどうされるおつもりですか?」


「このまま帰るよ。1週間後の世界なんて大して変わってないだろうし、見て回ってもしょうがないしな。それに、俺の不用意な行動でパラドックスが起きたりしたら堪らん」


「そうですか」


「ああ、それじゃあな」


 俺は元のタイムラインに戻るために、再びタイムホールに飛び込み、味わいたくない浮遊感を味わい尽くし、ゴミのように放り出され、そしてその1週間後――



 ――8億円という大金を手にした。

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