タイムホール
●○●
あの2色の鉱石がエキゾチック物質であることを突き止めてから2週間後、俺はヴィーナの自宅に呼び出された。
「入って」
少し疲れた表情のヴィーナについて、家に上がる。
そしてそのまま階段を下り、地下にある研究室に向かって歩みを進める。
「ちゃんと寝てるのか?」
「最低限はね」
「……俺が頼んだことだが、あまり無理はするなよ」
俺がそう言うと、ヴィーナは嬉しそうに笑った。
「ありがと。でも、大丈夫。睡眠不足も今日が最後だと思うから」
そう言って、ヴィーナは研究室入口の装置にパスワードを入力した。
金属製の扉が、左右にゆっくりと開く。
すると、部屋の中心に見たことのない人型のロボットが立っているのが目に入った。
「ヴィーナ、なんだあのロボットは?」
「テスト君。タイムホールの調査に使ってたの。何が起きるか分からないしね」
「テストです。ヨロシクお願いします」
テスト君の身体を見ると、肩のところに『MADE BY SHIRAI』と書かれていた。どうやら、白井ロボティクスに協力を依頼したらしい。
ちなみに、白井ロボティクスは日本が誇るNo.1ロボットメーカーであり、そこの社長の娘である白井キイとは、俺もヴィーナも小学生の時から付き合いがある。所謂、旧知の仲というやつだ。
まあ、白井ロボティクス製であれば、信用して問題ないだろう。
「それで、調査は上手くいったのか?」
「うん。数値的には人間の身体でも問題ないと思う。テスト君がタイムホールの先で撮って来た映像もあるけど、見る?」
「いや、いい。初めては自分の目で見たいしな」
「了解」
ヴィーナはそう言うと、部屋の中にある装置を操作し始めた。
瞬間、ガラスで隔てられた奥の部屋に、上之浦山で見たのと同じ黒い球体が現れる。
「あれがタイムホール……」
ブラックホールのような見た目のそれに、俺の心が吸い寄せられていく。
純粋な黒から、目を離すことが出来ない。
「安定して維持出来るのは大体1時間くらい。入口も出口も座標はここから動かせなかったけど、出口の時間に関してはある程度コントロールに成功したよ。太陽はどの時間に行きたい?」
「そうだな、まずは1年前……いや、1週間後に跳べるか?」
「出来るけど、どうして1週間後なの?」
「1週間後にロト8の結果発表があるんだ。まずは一稼ぎしておこうと思ってな」
「成る程、それはナイスアイディアだね」
ヴィーナが装置を操作し、出口を1週間後の世界に合わせる。
「準備出来たよ」
「ありがとう」
奥の扉を開き、宙に浮かんだタイムホールと向かい合う。
そして、俺は3回深呼吸をし、震える身体を落ち着けてから、1週間後の世界に跳ぶべく、タイムホールに飛び込んだ。
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