第21話 医療ドラマの迷セリフ?
ジョッキを掲げながら、彩香が声を張り上げる。
「今日もお疲れ様!さ、みんな飲んで飲んで!」
翔太が隣で笑いながらジョッキを持ち上げた。
「お疲れ。でもさ、こうやって飲むときくらい、医療の話から離れたくない?」
美里が早速突っ込む。
「翔太、それ言うなら、なんで毎回こんな話題になるのよ?」
「だってさ、職場の人間しかわからない話って盛り上がるだろ?」翔太が苦笑する。
恵がテーブルに肘をつきながら、グラスを傾ける。
「じゃあ、今日は医療ドラマの話にしない?あれ、見るたびに現場のリアルとは違いすぎて笑っちゃうのよね。」
彩香が目を輝かせて乗り気になる。
「あ、それいい!この前も見たけど、なんかすごい台詞多くない?例えばさ、こんなの!」
彩香が声を張り上げ、ドラマの医師を真似する。
「患者を救えるのはたちだけだ!」
翔太が即座に肩をすくめた。
「俺たちって誰だよ、って話だよな。医者だけで救えると思ってるのがそもそもおかしい。」
美里もため息をつきながら言う。
「ほんとよね。むしろ現場では、看護師が医師のフォローしてなんとか成り立ってるじゃない。これ見た患者さんが勘違いして、看護師の存在薄く見られるの困るわ。」
恵が小さく頷きながら続けた。
「こういう台詞が浸透しちゃうとさ、チーム医療の大切さをわかってもらえないのよね。」
彩香がテーブルを叩きながら笑う。
「じゃあ次!これも名セリフじゃない?『成功率1%だとしても、俺はやる!』」
美里が苦笑しながら首を振った。
「1%?いやいや、そんな確率の手術を現場で許可するはずないでしょ。家族に説明したら、まず反対されるに決まってるじゃない。」
翔太も苦笑して口を挟む。
「そもそも、1%ってどっから来た数字なんだろうな。現場じゃもっと具体的なデータで判断するだろ。」
恵が腕を組んで、少し真剣な顔になる。
「そうよね。現場ではまず患者さんと家族にどう伝えるか考えるのが最優先。ドラマみたいに医者が単独で決めて突っ走るなんてありえないわ。」
彩香がグラスを持ち上げながら、さらに話題を広げる。
「あとこれもすごくない?『絶対に諦めるな!命の限り戦うんだ!』」
美里が大げさにため息をついた。
「戦うのはいいけど、患者さんと家族の意思はどこいったのよ。」
翔太が軽く笑いながら言う。
「現場のリアルは、『命の限り戦え』じゃなくて、『どうするかはよく話し合って決めましょう』だよな。」
彩香が頭を抱えて笑い続ける。
「ほんとそれ!患者さんに選択肢を提供して一緒に考えるのが普通よね。でも、そんな冷静な場面ばっかりのドラマ、誰も見ないか。」
ここで美里が、少し毒のあるトーンで言う。
「でもさ、私の中で一番ムカつくのは、『医者は神だ』とか言っちゃうやつね。」
恵が「それそれ!」と即座に反応する。
「現場ではむしろ『医者も人間』が合言葉なのにね。『神』って、自己評価高すぎない?」
翔太が静かに苦笑して言った。
「まあ、『神』って言う医者ほど、凡ミス多い説はあるよな。」
彩香が勢いよくテーブルを叩く。
「ちょっと、それめっちゃわかる!でもさ、患者さんから見たらカッコいいのかな?私たちの職場でそんなこと言ったら、絶対白い目で見られるけどね。」
美里が冷静なトーンで言う。
「まあでも、そんな神様が職場に来たら、私たちが奇跡を起こさないといけないのよね。」
全員がその一言に爆笑する。
さらに彩香が思い出したように、別の名セリフを口にする。
「これも定番じゃない?『大丈夫。僕が君を助ける。』」
翔太がグラスを置きながら、少し真顔になる。
「いや、それ言うなら看護師とかコメディカルチームにも一声かけてほしいよな。」
恵がにやりと笑い、翔太を指差す。
「もしかして、翔太もこんなセリフ言ってみたいんじゃないの?」
翔太が慌てて手を振る。
「いやいや、そんなこと言ったら、患者さんに『チームでやって』って冷たく返されるだけだろ。」
彩香がふざけた調子で手を上げる。
「じゃあ、次の医療ドラマで、翔太がそのセリフ言うシーン作ってもらおうよ!」
美里が笑いながらジョッキを掲げる。
「いや、そもそも翔太が主役になるドラマって成立しなくない?」
翔太が苦笑しながら肩をすくめる。
「まあ、脇役が現場の主役だからな。それがリアルだよ。」
最後に恵がまとめるように言った。
「結局さ、ドラマと現実は違うけど、私たちは私たちの現場を誇りに思ってるわけよ。」
彩香が手を叩きながら同意する。
「そうそう!でもさ、ドラマみたいにちょっとカッコいいシーンが欲しい気もするけどね。」
美里が毒舌気味に、「カッコよさは別にいらないけど、ちゃんと正しい現場描写だけしてほしいわ。」と言い放つ。
全員が大笑いしながら、グラスを掲げる。
「じゃあ、地味で地道な現場に乾杯!」
居酒屋の楽しい夜は笑い声に包まれ、終わりを迎えた。
------------------------------------------------------------------------------------------------
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。もしこの作品を楽しんでいただけたなら、ぜひ評価とコメントをいただけると嬉しいです。今後もさらに面白い物語をお届けできるよう努力してまいりますので、引き続き応援いただければと思います。よろしくお願いいたします。
こんな小説も書いています
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます