第9話 看護師たちの飲み会、師長の恋愛秘話

彩香が「恋愛の話とかどうですか?」とキラキラした目で言い出すと、全員がその提案に乗っかるようにうなずいた。話題はすぐに田辺師長へと向けられた。


「ところで師長、結婚されてるんですよね?」美里がさりげなく切り出す。「お相手、確か女医さんでしたよね?」


田辺師長が少し照れくさそうに笑った。「ああ、そうだよ。もう結婚して15年になるかな。」


「ええー!すごい!女医さんってめちゃくちゃ忙しいんじゃないですか?」彩香が興味津々で問いかける。「どんな出会いだったんですか?」


田辺部長はジョッキを手に取り、ゆっくりとビールを飲んでから話し始めた。「出会いは、俺が30代半ば、彼女が研修医だったころだな。夜勤でバタバタしている中、彼女が迷子みたいな顔をしてナースステーションに来たんだ。それを見て、俺が『大丈夫か?』って声をかけたのがきっかけ。」


恵が目を輝かせて言った。「まさかの職場恋愛!いいですね、そういうドラマみたいな展開。」


「いやいや、そんなにロマンチックじゃないぞ。」田辺師長が苦笑する。「最初は、彼女が“あの師長、やけに指導厳しいな”って思ってたらしい。けど、何回か一緒に仕事してるうちに、自然と距離が近くなった。」


美里が興味深そうに「でも、医者と看護師って時間が全然合わないって言いますよね。大変じゃなかったですか?」と聞く。


「もちろん大変だったさ。」田辺師長が頷く。「俺も彼女も夜勤や当直ばかりで、まともに会えるのは月に数回。それでも、一緒にご飯を食べたり、休みが合えば日帰りで温泉に行ったりして、何とか工夫してたな。」


「やっぱり工夫と努力なんですね。」と美里がしみじみと言う。「でも、今でも一緒にいられるってことは、それ以上に信頼関係が強いんですね。」


「まあ、そうかもな。」田辺師長が照れたように笑う。「ただ、彼女が『今日は夫婦でカンファレンスしましょう』なんて言い出したときは、本当に参ったよ。家でも仕事の話をするのは、正直しんどいときもある。」


「家でもカンファレンスって、さすが女医さん!」彩香が大笑いする。「でも、師長って優しいから、結局ちゃんと付き合ったんでしょ?」


「まあ、な。」田辺師長が少し肩をすくめる。「でも最近は、俺が家事担当で彼女が当直に行くことが多いから、逆に平和だよ。」


恵が感心したように、「なんだか理想的な関係ですね。お互いを尊重し合ってる感じがします。」と言った。


「そうだな。医者と看護師の結婚はうまくいかないって言われることもあるけど、結局のところ、お互いがどう支え合えるかが大事だ。」田辺師長がしみじみと語ると、全員がうんうんと頷いた。


「それにしても、師長の奥さんってすごいなあ。」彩香が感嘆しながらビールを飲み干した。「私は恋愛する暇がなくて、たまに合コン行ってもダメンズばっかり捕まえるんですよ。」


その言葉に全員が笑い出し、「それは彩香らしいな」と、美里が肩をすくめた。飲み会の話題はさらに盛り上がり、看護師たちの恋愛話は尽きることなく続いた。

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