第2話 生駒勘四郎
強くなりたい……
その後直に忠吉が急死した為、家康の息子九男の
生駒家はそのまま義俊に仕え、
しがない
勘四郎は本格的に剣の道へと進む事に決めた。
家督を継げない者の
尾張藩はのちに
しかしこの当時の勘四郎は、今流行の
「俺は強くなりたい、
そう告げると父や母は笑った。
一年前にもそう告げて家を飛び出したのだが、十日程で戻って来たからだ。
甘やかされて育った勘四郎に、
しかし今回の決心は本気だった。
先日道場の先生から、そろそろ目録を
自分にはきっと
野宿など何ほどの事では無い、この一年で自分は大きくなったはずだ。
何よりも、先ほど笑った両親の鼻を明かしてやりたい。
その夜、勘四郎は皆が寝静まるのを待って
江戸時代も中期に差し掛かると、部屋住みの
まだ戦国の世を色濃く残したこの時代、
旅を始めて3ヶ月が立った。
野宿には
「俺は強くなった、そしてまだまだ強くなるぞ」
江戸の「柳生新陰流」は「
それとは別して、
同じ
江戸内に幾つも道場を開いて居て、それが他藩にも広がり「小野派一刀流」の道場は拡大していった。
小野派の道場は庶民も受け入れていたから、その人気にも
「まちな、坊ちゃんよう、有り金すべて置いて行きな」
いきなり三人の浪人が
絵に描いた様な
ついにこの時が来たか、人と切り合ってこそ武者修行の旅だ。
斬り合わずしてこの旅は終わらない事は、
しかし勘四郎はいきなりのことで、気が
「なんだぁ、この野郎、
食詰め浪人たちが笑い始めた。
「坊ちゃんよう、ついでにその腰の物も置いて行きな、坊ちゃんには必要ないわ」
その言葉で今度は大笑いが始まった、こちらを指さす者までいる。
気が付くと抜いていた。
食詰め浪人たちは、一瞬何が起ったのか解らないと言った顔をして居る。
「こ、こいつ、
次の瞬間浪人たちも刀を抜き、勘四郎は三人の浪人と
相手が三人とは
正面の浪人が斬りかかって来た。
勘四郎は相手の太刀に合わせる
これは小野派一刀流に伝わる(切り落とし)と言う
しかし勘四郎の太刀は上手く合わさらず、浪人の
オマケに自分自身も左肩から下へと斬り下げられてしまった。
勘四郎の傷は浅手であったが、浪人の方は頭蓋からの
すでに息絶え
直に勘四郎は行動をうつした。
右横に居た浪人目掛けて太刀を
余りにも
「た、助かった」
死を覚悟していた勘四郎は、腰を抜かしその場にへたり込むと
野次馬の何人かに手伝って貰い、それでやっと立ち上がることが出来たのだ。
「お
「ほんまや、大したもんやで」
野次馬たちは口々にそう
何とも恥ずかしい
初めて人を
現在よりも人の命が遥かに軽かったこの時代に置いても、殺人は気持ちの良いものでは無い。
頭蓋を
二体の死骸は野次馬に来ていた近くの村人たちが、すぐ
勘四郎は素直に頭を下げて行為に甘える事にした、そして
想定はしていたが先延ばしにして来た事が現実になった、伊藤一刀斎や宮本武蔵はこんな事を何度も繰り返して居るのか。
兵法者として生きるとは
勘四郎は今年で十七歳になる。
生駒家の四男として生まれ、今まで何不自由なく育ててもらった。
飢える事も無く剣術も学ばせて
今、父や母に無性に逢いたい、逢って自分が今までして来た親不孝を、心の底から
「俺は、こんな事がやりたくて家を飛び出して来たのか」
あの日から十日程立っただろうか、しかしまだあの時の光景が頭から離れない。
しかし、これは兵法者たる者が皆通る道なのだ。
伊藤一刀斎や宮本武蔵もきっと通った道に違い無い、後はそれをどうやって
少し手が届きそうな所まで来たと自分なりに思って居たのだが、一瞬で遥か遠くまで行ってしまった。
もうすぐには手が届かない。
そんな事を考えながら歩いて居る内に、姫路の城下にたどり着いた。
ここのところずっと野宿が続いて居たので、今日あたり
風呂にでも入って何か地の旨い物でも食えば、気分も少しは変わるだろう。
勘四郎は一軒の旅籠屋に目を付けた。
「ごめん、空き部屋はありますか」
「はい、いらっしゃいませ、お客はん運が良うおまっせ、
勘四郎は小さな運を拾った気がした。
部屋に入り荷物を開いた。
一人部屋でなくとも良かったのだが、久し振りに
「よし、風呂に入ろう」
この旅籠の売りは大風呂らしい、どんな風呂だろうと思いを寄せながら自分の気持ちに少し余裕が生まれて来た事に気が付いた。
やはり少しの運を拾ったみたいだ。
風呂は岩風呂だった。
店の店主が
何個もの大きな岩で湯船を囲い、洗い場は
一番風呂かと思ったが先客が居た、
「失礼します、ご一緒させてください」
「うむ、どうぞ」
この大男も兵法者だろうか、大きな身体で筋肉が
この時代、身体が大きいと言う事はそれだけで他よりも断然有利なのである、勘四郎は
「まだ若い様だが、お主も兵法者かね」
大男の身体を眺めて居た勘四郎は、
お主もと言う事は大男も兵法者と言う事だ。
「は、はい」
「して、
「あ、は、はい、小野派一刀流です」
「ほう、その様に大事な
「えっああ、いや、すみません」
「
「はぁ、なるほど、ご
「うん、素直じゃな」
「はい、自分はまだまだ駆け出しの兵法者ですので、
ほう、と一言発した後、大男は勘四郎に言い聞かせる様に語りだした。
「兵法と言うは
大男の言葉が
今、勘四郎が求めていた答えを語ってくれたのだ、なぜだか解らないが涙が溢れて来て止まらない。
「ありがとうございます、本当にありがとうございます、心が楽になりました。
突然泣きながら名を
そして勘四郎の顔を少し眺めた、その後でゆっくりと告げた。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます