第3話 我は宮本武蔵なり
昨年、
負ければ
もし、あの一撃で佐々木の
次の太刀では佐々木の反撃に遭い、きっとそれは避けきれない。
佐々木の
しかしそうなる事を
それが一つでも欠けていたら負けていた。
佐々木は強かった、
あの決闘は、武蔵の周到な準備があってこそ勝利できたのだ。
己の力量のみを
あの日以来常に己に言い聞かせていることだ。
現在(
決闘の場所である船島は、勝者の武蔵ではなく敗者である佐々木小次郎が
巌流島の決闘以来、武蔵の兵法が攻めから守りに変わったのではないかと考える歴史家は多い。
姫路城は
城の
播磨は
池田家は
家康は大阪を見据え、最も信頼できる者を
しかしその信頼のおける池田家の当主、池田輝政が今年の三月に亡くなったのである。
信長、秀吉、家康と三人の天下人に仕え、戦国の世を渡り歩いた
「うむ、池田は
名を上げ
己自身が
江戸に在る
この時代、将軍家兵法指南役なる役職は
だとすると、自分たち剣術家にととては宗矩の三千石が禄高の最高峰と言う計算になる。
その三千石と言う数字がやがて武蔵が己を売り込む為の基準になっていくのだが、それはまだ先の話しで、この頃の武蔵はそこまで
三千石とまでは行かないまでも、池田輝政ほどの武将であれば、武蔵の
名のある武将に
しかし輝政亡き後となっては、池田家には魅力を感じない、己の自尊心も許さない。
この先、
「お
思案しながら歩いている内に、
旅籠屋の呼び込み
兵法者として武蔵は己の剣を
武蔵は武術だけではなく、
書、画、
兵法者として名が上れば、必然的にそれらも
時には
「いや、
「ほんま、池田のお殿はんもお亡くなりになられたよってにな、いまの播磨はがたがたですわ」
部屋に案内され一息つくと、隣の部屋から話し声が聞こえて来た。
壁が薄いせいもあるが、旅の旅籠ではよくあることだ、旅人から旅人へと噂は流れていく、そうやって噂は広がるのだ。
旅籠屋に宿をとると、武蔵はいつも
「なんやまた大坂の方で大きな戦が始まる言うて、きな臭い噂も流れて来よりますよってにな」
「ほんまかいな」
「ほんまや、大坂が銭で浪人共をぎょうさん集めよる言う噂もあるんやで」
「そないに大事な時に池田のお殿はんは亡くなりよったんかいな、それをさせん為のお役目やったのにな、そりゃ死んでも死にきれんやろな」
「ほんまな」
大坂とは
慶長五年に起こった(
東西分けて二十万もの軍が戦った日本の戦史上最も大きな
その後西軍に属した武家は
豊臣家は大坂に
武蔵も
他のことは何もしていない、ただ駆け走っていただけである。
その後も、すぐに
今、もしもまた戦に出たとしたら、あの頃の様には行かないであろう。
徳川の天下はまだ
世は行き場を失い、食うや食わずの浪人で溢れかえって居るのだ。
切っ掛けさえあれば
武蔵は大坂に行くつもりである。
まだ
未だ無敗、負けた事が無いのだ。
大坂に行ったとて、まさか
豊臣家に
それだけだ、それだけで向こう側からすれば百人力、いや千人力の力を得た様な気持ちになるに違いない。
後は
軍師を乞われるやも知れない、兵法指南役であるやも知れない。
軍師にも魅力はあるが、やはり己が今まで築き上げて来た方が
豊臣の天下が再び
いつの間にか武蔵は拳を握りしめている事に気が付いた、
兵法者たる者、いつ何時であろうと平常心を保ってないと成らない、いつ敵の攻撃に襲われるか解らないからだ。
常に平常心で
武蔵は己を恥じた、武蔵の
天下一の兵法者と
「また出たらしいわ」
「
「そや、その小坂部がまた出たんやて」
隣の客がまた話し始めたが声が低い。
何やらが出たとか、それが出たのは久し振りだとか、そう言った事を語り合って居るのだ。
それが出ると何か良くない事が起るのだそうだ。
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