第3話 心霊スポットに綺麗な人が入っていったから後を追ってみた!


大山おおやま高校・一年五組



真霊しんれいスポットに迷い込んだら最後、二度と戻ってくることはできないんだよ」と言ったが、これは嘘である。いや、正確には誇張と言うべき案件かもしれない。


 ここまで聞いたら、「何で真霊スポットとかいう噂にすらならないヤバい場所についてここまで詳細に知っているんだ?」という至極真っ当な疑問が浮かぶだろう。


 その疑問にお答えしましょう。


「真霊スポットから生きて帰ってきた人がいて、その人に聞いたから知っているのです!」


 当然、「誰やねんそいつ?」となるだろう。


 重ねてお答えしましょう。


「ミステリアス系美人霊媒師のみーちゃん!」(※プロローグ参照)


 みーちゃん曰く、力の強い者なら真霊スポットに自由に出入りすることができるとのこと。どうやら力が強いと出入り口が見えるらしく、見えるだけで中に入れない人もいるらしい。稀に出入り口が開けっ放しのような状態になるときがあり、その状態になると誰でも真霊スポットに入れるようになってしまうという。


 また、どんなに力の強い者であっても常に危険と隣り合わせ、真霊スポットとはそのような場所なのだとみーちゃんは言った。先程の発言で、嘘ではなく誇張と言うべき案件かもしれないと言ったのは、このみーちゃんの言葉にるところが主である。


 因みに、一言で端的に言い表すなら……


『力の強い人でもめっちゃ危険な場所に、普通の人が迷い込んだら一溜まりもないやろがい!』


 故に、一部の例外の方々以外の人たちには事実であり、例外が存在するため誇張なのである。


「真霊スポットがめちゃくちゃ危険な場所であることは分かった。なら何故一部の例外さんたちはそのことを皆に伝えないんだ?」と思った方もいるだろう。


「それは私にも分からん」


 教えてもらってないので答えようがないのである。



 そんな訳で、私の誇張発言によって冷え切った空気の中、最初に言葉を発したのは静流しずるちゃんだった。


「さくらちゃん、今回は行くのやめておきなよ。幽華ゆうかちゃんの話を聞いた後で、友達にそんな危ない場所に行ってほしくないよ」


 流石聖女、なんて友達思いなのだろうか。


 この素晴らしいお言葉に、さくらは答える。


「静流にそこまで言われてしまったら、今回の森潜入エンターフォレストは諦めざるを得ないね」


 森潜入エンターフォレストという言い回しに少し引っ掛かるところがあったが、どうやらも神薙の森に入ることは諦めてくれたようだった。


「じゃあ、この話は無かったことにしましょ!というか、夜の森とかいう暗くて怖い場所好き好んで行く必要ないでしょ!」


 私の発言を区切りにして、さくら提案の神薙の森での肝試しは白紙となり、とても普通な女子高生たちによるガールズトークは、無事お開きとなった。


★大山市・住宅街


 時は流れて放課後になり、私は家路についていた。二人の家とは大山高校を挟んで反対側にあるため、登下校はいつも一人で徒歩通学である。話し相手がいないため、今日あったことを思い出す。


「流石に一人で神薙かんなぎの森に行くとかしないよな?あの横文字馬鹿……」


 今日一番の出来事であったとのやり取りを思い出し、どことなく不安感に駆られる。


「あいつ森にはしないとは言ってたけど、森を行かないとは言ってないんだよな……」


 さくらという少女の特性や性格をよく知っているため、当てはめた文字にあまり深い意味が込められていないことは理解しているが、それでも友人が危険な場所に行くかもしれないという疑念が、幽華に行動を強いる。


「しょうがない、一応今夜神薙の森見張っとくか!」



 幽華はそう心に決め、家までの歩を進める。


 このときの幽華はまだ知る由もなかった。友人のためにとったこの行動によって、自分の人生が色々な意味で大きく変化してしまうことに。


★神薙の森・外周


「久しぶりに来たけど、やっぱりめちゃくちゃいるな幽霊。というか夜の森超こっわ!まあ、とりあえず座りますか」


 幽華は家で必要な装備をあらかた準備し、神薙の森の外周にある開けた場所に陣取っていた。予定としては2時間ほど待機し、さくらが来なければそのまま帰宅し、もし来た場合は説教をして、さくらが満足するまでこの場所から森を観察?するつもりである。


 また、早めに夕飯を済ませたり、家を出発する前にお花摘みをするなど、途中で帰宅しなければならないような有事は未然に防いであるため、準備は万全と言っていいだろう。


 だが、幽華はとても大切なことを失念していた。



「めっちゃ暇!!!」


 2時間何をして時間を潰すのか、何一つとして考えていなかったのである。


「……女の人が三人、女の子が二人、あっ、女の人もう一人いた」


 本当にやることが何もなかったため、とりあえず幽霊を数えることにした。


「にしても昔は気が付かなかったけど、この森女性の幽霊しかいないなぁ。ここは女性幽霊専用車両てか!……なんか恥ずかし」


「しかも、皆服装が似てるの不思議だなぁ。白い白衣に赤いスカート……巫女みこ服?」


「生前に巫女だった人たち御用達の心霊スポットってこと?何故に?」


 巫女っぽい女性の幽霊しかいないことを不思議に感じた幽華だったが、数瞬後には別のことに興味が移る。


「あっ、巫女服じゃない幽霊発見!どれどれ……うわっ!めっちゃ綺麗な幽霊さんだわ!黒髪ロングとかどストライクすぎてヤバい!背も高いし顔ちっさ!生前モデルとかしてそ〜」


「服装もめっちゃお洒落だし最高!イエローのロングスカートが似合いすぎてて眼福すぎる!!あ~、ずっと見てられるわ〜。……ん?」


「えっ?何でお姉さんが通ったところの草倒れてるの……あっ……えっ、マシで!?もしかしてお姉さん生きてらっしゃる!マジもんピーポー!?」


 なんと人がいたのである。しかも、幽華の趣味にどストライクな美人さんだった。神薙の森は心霊スポットととしてとても有名だったため、さくら以外の人も来る可能性があることは考えていた。だが、まさかこんな綺麗な人が来るとは微塵みじんも思っていなかった。


 故に、幽華の思考力は極限まで下がってしまう。


「あんな綺麗な人見たことない!静流ちゃんもさくらもめちゃくちゃ美人だけど、いい意味で高校生らしさが残ってるんよね。でも、あの人からは大人の魅力ってやつを感じる!めちゃ眼福!!!」


「何とかしてお近づきなりたいなぁ〜。あっ、森の中に入って行っちゃう……追いかけちゃお!」


 幽華の視野には目の前の綺麗な人しか映っておらず、脳内ではどうやってお近づきになるかのシミュレーションが繰り返されていた。今の彼女には恐怖という感情が付け入る隙は微塵もなく、自分がどこにいるのかなど全くもって関心がなかった。


 斯くして、幽華は自分で危ない場所だから入るなと言ったのにも関わらず、綺麗な人の尻を追いかけて神薙の森内部に森潜入エンターフォレストしてしまうのであった。

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