第4話 月が綺麗ですね……でも、お姉さんの美しさには敵いませんがね!
★
「お姉さん、真っ直ぐ森の中心に向かって行ってるけど、何かあるのかな?」
「どうやってお姉さんに話し掛けようかな〜。『心霊スポットに現れたミステリアスな少女』風に急に後ろから話し掛けるのも良いし、いきなり『きゃ〜お化けでた〜!怖いよ〜!』って叫んでお姉さんのところに駆け寄るのも良いかも!」
「いや、やっぱりこれだわ!『困っているところに颯爽と現れるヒーロー!』ここは心霊スポットなんだし、何かしら問題は発生するはず!そこをスマートに助ける!うん、これにしよう!」
お姉さんに話し掛けるシチュエーションを妄想し、顔がニヤける。また、早く何か起こらないかなと心の中で思いつつも、いつ問題が発生してもすぐに動けるように、いっそうお姉さんの一挙手一投足に注目する。
幽華の集中力が過去に類を見ないほど極限まで高まっていたせいか、お姉さんについて少しだけ分かったことがあった。
「さっきからお姉さん、周りにこんだけ巫女さん幽霊がいるのに前しか向いてない。森の中に入る前にもいたから見飽きちゃったのかな?それとも幽霊に興味がないとか?でも、それなら何で神薙の森なんかに来たんだろう?」
「あっ、お姉さんの前に巫女さん幽霊がいる。これでやっとお姉さんの幽霊に対するリアクションが見れる!どれどれ……えっ?」
「避けないの!?あっ、これお姉さん幽霊に全く興味ないパターンだわ!じゃなきゃ流石に幽霊が透過すると言っても避けないわけないもん、幽霊が見えない普通の人たちじゃあるまいし……ん?普通の人?」
「そうじゃん!お姉さんが幽霊見える側の人という前提で話進めてたけど、見えない人の可能性あるじゃん!というか、さっきの反応見たら見えない可能性の方が高いよね……マジか、これじゃ『幽霊トークで仲を進展させよう大作戦!』は没じゃん……」
お姉さんはどうやら幽霊が見えていない可能性があった。その事実に気がついた幽華は、尚の事お姉さんの行動に疑問を感じる。
「幽霊が見えないのなら、尚更何で神薙の森に来たんだろう?肝試しだったら、もう少しゆっくり周りを見渡しながら歩くと思うんだけど。うーん、分からん!でも、ミステリアスなお姉さんって言うのも良いですな〜!」
色々と理由を考えたあと、自分の世界に浸っていた幽華だったが、そのせいで注意力は少しだけ散漫になってしまっていた。
パキッ!
「誰かいるの?」
「あっ!……こんばんは、今宵は月が綺麗ですね!でも、貴方の美しさには敵いませんがね!」
「えっと……ありがとうございます?で良いのかな?で、あなたは誰なの?」
「私は
「それは良かった!私あんまり人と関わることがないから、間違った返答で傷つけちゃったら嫌だなと思って。っと、自己紹介だったね!
「ご丁寧にありがとうございます!こちらこそよろしくお願いします、美琴さん!」
幽華がした数多のシミュレーションは、己の不注意によって意味を失ってしまった。しかし、何だかんだお姉さんとはお近づきにはなれたため、満足気に微笑む。
「因みになんだけど、何で幽華ちゃんは神薙の森にいたの?このあたりは大山市の外れだから、家とかはなかったはずだけど?」
「ええっとですね、私の友人が神薙の森に肝試しに行こうって誘ってきまして、誘いは断ったのですがそいつちょっと頭のネジがぶっ飛んでるんで一人でも行きかねなくて……それで心配になって様子を見に来た感じです」
「そうなんだ!幽華ちゃんは優しいんだね!」
「えへへ〜、そんなことないですよ〜。そう言えば、美琴さんは何で神薙の森に来たんですか?」
「えっとね……お母さんを探してるんだ……」
神薙の森に来た理由を聞くまでは笑顔だった美琴さんの表情が曇る。
「お母さんをですか?ああ、お母さんが肝試しに行っちゃったから止めにきたとかそんな感じですか?」
「いや、そうじゃないんだ……」
美琴さんの表情からして、絶対にそんな緩い感じではないことは分かっていたが、空気の重さに耐えられず冗談めいたことを言ってしまう。だが、そんな重い空気の中、美琴さんは続けて言う。
「私のお母さん、心霊スポットに行くって言ってから帰って来てないんだ……お母さんがいなくなってから、もう7年立つかな……」
「そうだったんですね……そうとは知らずにごめんなさい……」
「いや、普通に気になるよね、こんなところに一人で来る理由なんて!ほら、私も幽華ちゃんに聞いたから、お相子だよ!ごめんね、変な空気にしちゃって。そうだ、どうせなら二人で探検しない?」
「お気遣いありがとうございます。あと、その提案良いですね!乗らせて頂きます!」
美琴さんのお母さんが心霊スポットに消えたというセンシティブな話題もあったが、美琴さんが気を利かせてくれたお陰で重い空気はなくなった。
というか、「美琴さんという超絶美人と心霊スポットデートができるとか最高かよ!」とテンションが上がる幽華。
「あっ、そういえば美琴さんは幽霊見えない感じですか?」
「そうだね、お母さんは霊媒師みたいなことをやってたみたいだから見えてたらしいんだけど、私は全く見えないんだよね。って!美琴さんはってことは幽華ちゃんは幽霊見えるってこと!?」
「はい、実は幽霊見えちゃう系女子なんですよ!今も周りにいっぱい巫女さんの幽霊が……あれ?」
「ん?どうかしたの幽華ちゃん?」
おかしい、さっきまで沢山いた巫女さんの幽霊が一体もいない。それに、異様に静かだ。まるで急に異空間に飛ばされたような感覚だった。
「いや、さっきまで沢山巫女の幽霊がいたんですけど、いなくなっちゃってて……あと、この森ってこんなに静かでしたっけ?」
「確かに、さっきまで風の音とか虫の鳴き声とか聞こえてたのにね。なんか不思議な感覚だね」
まさしくその通りであった。端的に言うと、ヤバい場所に迷い込んだ感覚だった。ここに長居すると何か取り返しのつかないことになる、そんな気さえし、美琴さんに引き返そうと提案することを決める。
そんなときだった。
「ほほう、若い
謎の声が森の中で響いた。
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